第一五章 7.障子越しの恋、君のためにできること:沖田総司
まどろみの中で人の気配を感じて目が覚めると障子のむこうに人の影が見える。
誰かと思って声をかけるとまことがそこにいた。
「ここへは近づくなといったはず。
顔もみたくないから。」
ひどいことを言っている。
まことが私を心配してくれているのはしっている。
でもだからこそすがるわけにはいかないのだ。
大事たから。
この死病をうつしたくない。
私はてをきつく握りしめた。
骨ばって痩せた体。
眠れぬ夜。
止まらぬ咳。
溢れる血。
夜眠ったとき、次に朝きちんと目覚められるのだろうか、と恐怖に駈られることを誰にも知られたくなかった。
「顔は見せないから、聞いて。」
障子の向こうから静かな声がきこえる。
「あたし、戦に行くことにした。救護班として、あたしはあたしのやるべきことをするよ。」
!
私は息をのんで動くことすらできなかった。
危険にさらしたい訳じゃなかった。
ただまもりたかっただけなのだ。
それなのに、私はそのちからさえ残されなかった。
だから遠さかることしかできないのだ。
「総司はあたしの顔なんて見たくないとおもうかもしれない、それでもいいからちゃんと食べて休んできちんと治して。」
一瞬障子を取り払って彼女の身体を抱きしめたい衝動に駈られる。
違うのだ。
本当は逢いたい。
その笑顔が見たい。
守りたい。
幸せにしたい。
でもそのどれも私には許されないから。
唯一できるのは遠ざけて病気をうつさないようにするたけ。
「うん…。」
このふるえがどうか彼女に伝わりませんように。
先に手を離したのは自分。
手を伸ばせばそこにいるのに、なのに遠ざけて、傷つけて…。
もう会えないかもしれない。
そう思ったら去っていく影を呼び止めざるを得なかった。
「まこと!」
止まる影。
「どうか健勝で。
無理はしないで。
必ず帰ってくると約束して。」
こんな女々しいことしか言えぬ自分が歯がゆい。
この手を伸ばせば届きそうなのに、けれど決して届かない。
届いてはいけない。
大切な人を守る唯一の方法だから。
この障子が私たちの運命を隔てているように思えた。
誰もいない暗い部屋で咳き込む。
お馴染みになってしまった血の味。
私ははをくいしばって泣くのをこらえた。