第十五章 6.障子越しの…
総司の部屋の前に来ると、あたしは部屋の中の気配を伺った。
部屋の中からは物音一つ聞こえない。
眠っているのだろうか…。
あたしが、身動いだそのときだった。
「誰です?」
部屋の中から聞こえる声。
ガサゴソと衣擦れの音がする。
やっぱり総司は気配に敏い。
「ごめん、あたし。」
「ここへは近づくなと言ったはずだ。
君の顔など見たくない。」
刺さるような総司の冷たい声にひるみそうになる。
そこにあるのは圧倒的な拒絶。
でも、言っておかなければ。
総司はどんなことがあってもあたしの大事な人だから。
あたしのその存在がいつ消えるのか、わからないから。
「…顔は見せない。
障子越しでいいから聞いてくれる?」
「…。」
沈黙を諾として、あたしは口を開く。
繭のような障子に向かって。
「あたし戦に行くことにした。
救護班として、ついていくことにしたの。
だから行く前に、総司に挨拶をしようと思ったの。
何があるか…わからないご時世だから。」
総司は何も言わない。
ただ沈黙が滓のようにあたりを覆うだけ。
「…。」
重苦しい空気に怯みそうになり、あたしは続ける。
「総司はもうあたしを見たくないって思うかもしれないけど、
それでもいいから、きちんとご飯食べて、しっかり寝て、休んで
絶対に治すことを約束して。」
「…うん。」
消え入りそうな小さな声ではあるけれど、答えてくれた。
そのことがうれしかった。
「総司と話せてよかった。
市村君に後のことは任せてあるから安心して。
あたしはあたしにしかできないことをしに行ってくる。」
「…。」
「じゃあ、あたし、もう行くね。」
あたしは立ち上がって障子から離れようとした。
その時、
「まこと!」
総司に呼び止められる。
「何?」
「どうか、健勝で。
絶対に無理はしないで。
必ず、生きて帰ってくると約束して。」
障子越しに総司の声が聞こえる。
総司が話してくれたことがうれしくて、あたしは力強く頷いた。
「うん!
いってきます。」
守りたいものがある。
だからあたしは進もう。
ただ前に前に。
この命が尽きるその瞬間まで、自分のできることをするのだ。
障子越しではあるけれど、総司との溝が少し埋まった気がした。