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虹に届くまで  作者: 爽風
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第十五章 4.その笑顔を守るため:土方歳三

勝ちゃんが狙撃された。

犯人はわかっている。御陵衛士の残党だ。

俺はきつく唇をかみしめた。

消毒のにおいが部屋に満ちている。

勝ちゃんはその大きな体を横たえてさすがに青白い顔で眠っていた。


狙撃されたのは左肩。

どうにか屯所まで戻ってきたが、そのあとは崩れ落ちるように倒れこんだ。

松本法眼を小姓の市村に呼びに行かせ、水瀬が応急処置をした。

傷口を強い酒で消毒し、食い込んだ玉を取り出す。

うめき声一つ上げずにじっとしていた勝ちゃんもさすがに終わった後はぐったりしていた。

松本法眼は水瀬の処置に感心して、薬を処方して帰って行った。

その薬を飲むとすぐに眠りについた。


「俺のせいだな…。」


言葉が沈黙の中に転がった。


情けなかった。

ただ。情けなかった。

誰ひとり守れやしない。


芹沢さんも、山南さんも、平助も…死んだ、否、殺した。

俺のせいで。


あのとき、もしああしていれば、こうしていればと、後悔が胸を巣食う。

力づくでも止めていればこんなことにはならなかったか。

そんなことは何もならない。

終わってしまったことことに、もしなんていう選択肢はないのだから。


俺にできることはただ修羅の道をゆくことのみ。

それは嫌というほどにわかっているのに、不意に足が泥にとられたように重く動けなくなる。

だから止まるわけにはいかないのだ。


「土方さん」


不意にかけられた言葉にはっとして振り返る。

水瀬が血を洗い流して戻ってきたらしい。


「少し休んでください。近藤先生も落ち着いてますし。」


穏やかに言った。

あの勝ちゃんの様子を見ても取り乱すこともなく気丈に手当てをした。

こいつはどこまでも凛として強い。

総司のやつが血を吐いて倒れた時、血を吸い出したこいつを見たとき、胸がちぎられるような衝撃を受けた。

想いの強さに。

敵わないと。


「土方さん、付いていきますから。何があっても。

だから、貴方は貴方の道を走ってください。」


水瀬は小さく笑った。

その笑顔はどこまでも澄み切っていて、このまま消えてしまうのではないかとすら思った。

不意に抱きしめたい衝動に駆られた。

つかんでいないと、消えてしまうような錯覚に駆られたから。

だが、すんでのところで押しとどめた。

こいつには好いた男がいる。

それが総司なのかどうか測りかねたが、俺が入り込む余地はない。

いつまでも、振られた女にすがるようなことはしたくない。

ただ幸せに。

ただ健勝で。

こいつがこの空のどこかで笑っていれば俺は走っていける。

そう思うと、心の澱が緩んでいくような気がした。


「水瀬、総司や近藤さんを頼んだぞ。」


「はい。」


水瀬が花のような笑顔でうなずいた。

何も言うまい。

この魂から欲するこの渇望感を。

口にすることはない。

この想いを、もう二度と。


ただこいつの幸せを願うのみ。

こいつの幸せを、未来を守るために、俺は修羅の道を往く。



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