第十四章 5.向かい風に胸を張る
斉藤さんの報告で近藤先生の暗殺が御陵衛士によってたくらまれていることがわかった。
新撰組は機を見て御陵衛士の粛清を始めるらしい。
斉藤さんや平助君は大丈夫なのだろうか。
きっと大丈夫。
そう思うしかない。
慶応三年、11月。
暮れも押し迫り、北風が骨まで凍えさせるような寒い日だった。
「今日や。」
山崎さんが言葉少なく言う。
「…そうですか。」
「近藤さんが伊東を妾宅に招き、そして暗殺、遺体を油小路に放置して、引き取りに来た隊士たちを粛清するゆうんが土方はんの考える作戦らしい。まったく新撰組の鬼やなあ。」
「!」
遺体を放置して…なんてあの人はやっぱりどこまで行っても鬼になろうとする。
自分がどんなに手を汚すこともいとわない。
守るべきもの、その道のためにならどこまでも
泥をかぶって修羅の道を進むのだ。
「俺はだがあの鬼に魅せられとるからな。
あの人のために少しでも走りたいと思う。」
山崎さんは優しい目をしていった。
「…あたしも、行きたい。」
「あかん。女子に魅せられるようなもんでもない。」
「…山崎さん、あたしはもうふつうの女に戻れない。それに、自分の過去の落とし前つけなきゃいけないから。」
一瞬蘇る闇。
伊東派に襲われたことは今もまだ消えない、そしてきっと一生傷になる。
そこに図らずも山南先生がかかわって居たことも、忘れようとしても忘れられない。
「…」
山崎さんは何も言わずにあたしを見つめている。
山崎さんはあたしの事情も全部知っているから。
「それに、平助君や斉藤さんを守りたいの。」
御陵衛士になっても平助君は仲間だ。
粛清なんてことさせたくない。
「腕は落ちていない。だから任せて。」
剣の稽古は欠かしていない。
総司に仕込まれたこの腕はこの時代のあたしの数少ないよすがだ。
「…ほんま強情な女やなあ。」
山崎さんが苦笑する。
「山崎さんと同じ。
あの人が鬼になるのなら、あたしはそれを全部受け止めたいから。
あたしも鬼に魅せられているの。」
「狂気やなあ。
守りたいゆう男の気持ちも汲んでやりや。」
「そんなに柔じゃないの。
あたしは自分の道は自分で切り開く。」
あたしはいつだって自分の道を切り開いてきた。
これからだってそうだ。
どんなに時代があたしたちを阻もうと、向かい風に胸を張って進んで見せる。
そうしなければ、いけないから。
あたしがこの世界に来たのはそういうことだから。