第十四章 4.嵐、往く道:土方歳三
山崎の書簡を受け取り、奴らに動きがあったことを知り、副長室に幹部たちを集合させる。
皆が集まったのを確認して俺は口を開いた。
「奴らが動き出したらしい。
近藤さんの暗殺計画が出た。」
「「「「!」」」」
皆一様に驚きを隠せないようだ。
「新撰組を崩壊させる算段だろうがそうはいかない。
やられる前にやる。
俺らも動き出すぞ。
伊東派を粛清する。」
猶予はない。
伊東派はこれを機に薩摩、長州側につくだろう。
そうすれば新選組の隊内情報は筒抜け、死ぬことになる。
ようやく尻尾を出したあの男を生かすわけにはいかない。
「まってくれ。」
新八が口を開く。
「なんだ?」
「あっちには平助も斉藤もいる。
あの二人も殺すのか?」
「「!」」
はっとしたように皆顔をあげる。
「斉藤は心配ない。
平助は…
…逃がせ。」
俺は一瞬迷い、そういった。
試衛館時代からのあの人懐こい顔が思い浮かぶ。
「目的はあくまでも新撰組を排除しようとする動きを止めることだ。
平助は…何が何でも逃がせ。」
自分に言い聞かせるように言う。
「土方さん、あんた変わったな。
以前のあんたなら平助ですら容赦しなかったろうよ。」
しみじみとしたように新八が言う。
変わった?
俺が?
「俺もそう思うぜ。」
左之も鼻を掻きながらいう。
「ふん。今回は必要ないからだ。
ただそれだけだ。」
変わったことが弱いと同義に聞こえて、俺は視線を外した。
「だが、今のあんたが俺は好きだぜ。土方さん。」
新八が小さく笑う。
「ふん。いってらあ。」
こそばゆくなって新八に背を向ける。
優しいなんざ言われたくはない。
ただこれが正しいと思うだけだ。
誰を犠牲にしても
何をしてでも守りたいものがある。
新撰組。
近藤勇
そして水瀬。
守るべきものののために鬼になる。
迷うことなどしない。
俺はただ修羅の道をゆくのみ。
もう大切なものを失くさない。
嵐が来る。
その嵐の中で、俺はどんなふうに大切なものたちを守れるだろうか?