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虹に届くまで  作者: 爽風
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第十四章 3.侍、守り抜くもの:斉藤一


慶応3年6月、御陵衛士は山陵奉行・戸田大和守忠至に属すことになり、長円寺から東山の高台寺塔頭・月真院に移り「禁裏御陵衛士」の標札を掲げた。

この時新撰組から離隊して三月が経っていた。


俺は副長の命で御陵衛士に参加することで内情を探ることになっていた。


まったく、われながら損な役回りだと思うが、適任を考えれば俺しかおるまい。

藤堂さんは伊東さんに心酔しているし、

沖田さんや原田さんや永倉さんはこういうことには向かん。


その身にあった役を果たせばよいだけのことだ。



ただもう新撰組には戻れぬ、

互いの隊士の行き来を禁止している以上やむを得ぬことではあるが…

自分は捨て駒になるのだ。

そのことを恨む気持ちはない。

ただ思いのほか自分は新撰組を気に入っているのだ。

執着心を持っているのやもしれぬ。



ふと頭に浮かぶのは水瀬の顔。

もう久しく会ってはいないが、無事に戻ってこれたらしい。

肥後の守様に掛け合って良かった。

己が水瀬にしてやれた唯一のことであるようにさえ思う。



そうか、自分は新撰組と水瀬に執着しているのだ。

だからこの状況に不意に虚無感を覚えるのだろう。


もう会えぬ、


それはこんなにも焦燥に駆られるものなのだな。



だが、俺は俺の仕事をしよう。

ただ武士として、大切なものを守ることができるのはうれしいことだと思う。


”侍とはそばに控える、さぶらうから来た言葉、大切なもののために命をかけ、守り抜くものここそが真のもののふだ”


昔会津の父が言った言葉が今になってようやく実感できる。



守るのだ。


自分を武士足らしめてくれた

良き人、良き友、良き仲間を。


それこそが俺がとるべき道、

誠なのだと思う。





今屯所の一室で伊東甲子太郎は同士たちに高らかに自分の思想を語っている。


「この黎明の時に、徳川の古き思想は必要ではない!

尊王攘夷、天子様をお守りするためには徳川を排除しなければいけない。」


この人は人の心の奥を読むような不思議な話し方をする。



きな臭い。

いよいよか。


分離後しばらくはおとなしくしていると思っていたが、

案外早く動き出すらしい。


「新撰組を倒そう!」


「!」


ついに尻尾を出したか、伊東甲子太郎。


空気が変わった。

さすがに三月前まで自分たちがいた新撰組を倒すということで、隊士たちがざわついている。


藤堂さんを盗み見るとさすがに狼狽しているようだ。

拳を握りしめている。


「皆静かに。

確かに動揺は計り知れないと思う。

だが新たな時代に多少の血が流れるのはやむをえぬこと。

新撰組とは往く道が違っているのだ。

どんなに犠牲を払っても我々は天子様のために義を尽くさねばならぬ。

そうだろう、藤堂君。」


「!

…はい。」


藤堂さんは一瞬目を見開き、そして静かに俯いた。

きつく拳を握りしめたままに。


藤堂さんはまっすぐな熱血漢だ。

そして情と義に篤い。

伊東さんとは同門。

それに嫌とは言えぬのだろう。


どこまでも信じてついてゆく。

これもまたもののふの姿なのだろう。




道は完全に分かたれた。

時は来る。

伊東甲子太郎との対決の時がすぐそばまで迫っていた。

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