第十三章 7.約束、伝えられぬ想い
長く更新できずに申し訳ありませんでした。
話の方向性を見失い、しばらく一歩が踏み出せませんでしたが、更新楽しみにしていますとのお言葉いただき、再び更新することにしました。
また亀更新になるかもしれませんが、どうぞ最後までよろしくお願いします。
いつの間にか近藤先生も総司も部屋からいなくなっていて広い部屋にはあたしと土方さんだけになっていた。
土方さんはあたしの肩を抱いたまま離そうとしない。
あたしは土方さんの肩におでこを押し当てて涙を見られないようにした。
着物からはキセルの煙のにおいがかすかにしていて、それは泣きたくなるくらいに大好きな土方さんの香りだった。
「水瀬…戻ってこい…俺らのもとに。」
耳元でささやかれる低いかすれた声に、こくんと、あたしは小さくうなずく。
土方さんの腕の力が一層強くなる。
「水瀬…俺は…
お前に惚れてる。
もう迷わねえ。
だから、聞かせてくれ、お前の気持ちを…。」
この甘美な言葉はなんなのだろう…。
夢だとしか思えない。
涙で視界が揺らぐ。
あの雨の夜のことが思い出される。
”次に逢うときにお前の気持ちを聞かせてくれ。”
あの時土方さんは確かにそういった。
ならばあたしも迷うまい。
伝えよう。
この気持ちを。
あたしは口を開いて伝えようとした。
その時、
ズキッ
こめかみに締め付けられるような痛みが走る。
「うっ」
あたしは体を支えきれずに前のめりになった。
「水瀬!!」
土方さんがあたしを呼ぶ声が遠くで聞こえる。
あたしは闇に引きずられるように意識を手放した。
*
昏い。
何も見えなくて…
昏い。
ここは、
どこ?
”あなたは約束をたがえようとしましたね。”
なんのこと?
あなたは誰?
”時の番人。
あなたをここ柄連れてきたものです。”
約束って何?
”あなたは約束を交わしました。
愛する者と結ばれぬことを条件としてこの時代に来ると。
それを違えればあなただけでは済まない、体は一瞬にして朽ち果て、愛する者の魂も共に煉獄に落ちることとなる。”
あたしは…自分の想いを伝えることすらできないの?
それすらも許されないの…!?
”すべてはあなた自身が望んだこと。あなたは恋情を封じ込めてなおこの世に残ることを望んだのです。”
そんなの…本当に覚えていないの!!
”私はあなたが憎くてこのような契約を結んだのではないのです。
真実…
ならばあなたの命を削る代わりに、一日だけ契約からあなたを開放しましょう。
あなたが死する前日。この契約は解かれます。
あなたは一度だけ、想いを遂げることを許しましょう。
ただでさえ短くなったあなたの命はさらに削られます。
それでも良いですか?”
自分が死ぬときにしか伝えられないのね。
あたしはとんでもない契約をあなたと結んでしまった。
でも、それでもあたしはあの人の側にいたかった。
だからその契約を受けます。
”よろしい。では決して契約をたがえるのではありませんよ。
それをすれば私はあなたを煉獄に連れていかねばならなくなる。
では行きなさい。
私の愛おしい真実よ。”
遠くなる。
光が、遠くなる。
*
…
……!
せ!
誰かが呼ぶ。
誰?
「…なせ!」
うっすらと目を開けると光が入り込んできて思わず眉をしかめる。
「水瀬!」
「まこと!」
「水瀬君!」
懐かしい声
土方さんんと近藤先生、総司があたしを心配そうに覗き込む。
帰ってきたんだ。
また一つ重い契約の枷を背負って。
「では私たちはしばらく外すから、歳、しっかり看病頼むぞ。」
近藤先生は小さく笑って総司と連れ立って出ていく。
総司は何か言いたげにあたしを見ていたけど、あたしは気が付かないふりをした。
静寂が転がる。
「まったくびびらせんなよ。」
不器用だけど、やさしい貴方の言葉が滲みていく。
あたしの額を固い手が滑る。
あたしは静かに口を開いた。
「土方さん」
「なんだ?」
「あたし…ほかに好きな人ができました。
だから…気持ちには応えられません。」
声が震える。
ひどいウソ。
そんな人一生できるはずないのに。
でもそういわないと契約を破ってしまいそうで…。
土方さんは形の良い目を一瞬見開き、そして視線を外した。
「そうか…。
そいつはお前のこと幸せにしてくれるか?」
「…はい。」
土方さん、あたしあなたの側にいられれば、それだけで幸せなんです。
「…ゆっくり休め。」
土方さんは背を向けて部屋を出ていく。
その背中は拒絶に満ちていて…もう二度と戻れないことがうかがいしれた。
終わった。
あたしは選んだのだ。
この道を。
決して愛を伝えぬかわりに、ここに残ることを。
ねえ、神様。
残酷な選択をさせるのですね。
大好きな人からもらった大切な言葉をこんな嘘で汚さなければいけないなんて。
あたしはなんて愚かな選択をしたのでしょうね。
あたしは枕に額を押し付けて嗚咽を殺して泣き続けた。