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虹に届くまで  作者: 爽風
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第十一章 9.裏切り、自分のなすべきこと

あたしはどうしたらいいんだろう?

今までこうしていられたのは、隊を離れていても山崎さんと新撰組の為に働いてるっていう実感があったから。自分が新撰組の名を口に出せるだけでみんなと繋がっていられたからだ。


でも今度は違う。

桂の要求を飲んだらあたしはみんなを裏切って敵になるんだ。

大好きなみんなを裏切り、あたしはどんな風にこの先を生きていけるんだろう。

離れたくなんてない…。

でもあたしが仮にこのまま知らない振りをすれば近藤先生や土方さんは…?

新撰組はどうなる…?

切腹、解散…

ダメ、そんなの絶対嫌だ。

…あたしは初めから選択肢なんてないのかもしれない。

何かを守るためには別の何かを犠牲にしなければいけない、何かを選択するってことは他をあきらめるってことだ。


あたしは何を守りたいの?

誰の為に戦ってきたの?

あたしの誠はどこにあるの?


…そんなの簡単。

あたしの全ては新撰組の為に。


ああ、もう答えなんて出てるんだ。

初めから決まってる。

でもこのことをみんなが知ったら、あたしを止めようとするだろう。

どうにかしてそんなことをしなくてもいいようにみんな必死になってくれるだろう。

でも、それを止めることができるんだろうか?

たとえ、止めることができても、その時、きっと誰かが何かの犠牲をこうむる。

あたしはこの時代の人間じゃない。

この均衡を壊したのはあたしだ。

その落とし前は自分でつけなければ…。


でも…みんなを傷つけるだろうな。

このことを誰かに話すべきだろうか…。

話せばきっと止められる。

でも、何も知らないままにあたしが裏切ればみんなきっと傷つく…。

どうしよう…。


「お倫、どないした?明かりもつけんと。」

「!」

背後から聞こえた山崎さんの声にあたしははっとして振り向いた。

「なんや幽霊見たみたいな顔して…。顔色悪いで、なんかあったんか?」

「…いえ、ちょっと風邪気味で…ぼんやりしちゃいました。」

あたしはあえて明るく言った。

言えない…。

山崎さんは優秀な監察方だから見透かされそうだったけどあたしはとっさに嘘をついた。

「もう寝ますね。」

あたしはその場にいるのがいたたまれなくなって立ち上がって部屋に戻ろうとした。

その時腕をぐいっとつかまれた。

「ちょい待ちや。」

「!」

とっさのことでバランスを崩し、あたしは山崎さんの腕の中にすっぽり収まってあたしは山崎さんと抱き合うような恰好になる。

「何隠してんねん。ばればれや。」

「!なんのことですか?」

あたしは声を震わせていった。

「隠すならもっとうまくやれ。よおかくせんと、下手な嘘つくんやない。」

耳元で山崎さんは普段よりも一段と低い声を出して言った。


あたし嘘つくの下手すぎる…。


「…ごめんなさい。」

「謝っても何があったかわからんやないか。順追って話しや。」

諭すように山崎さんが言う。


あたしはそのあと、ゆっくりと今日あった出来事を話した。

桂に会ったこと。

新撰組の解散と、近藤先生と土方さんの切腹のこと。

それが平助君と左之さんが町の女性を助けたことに端を発する濡れ衣だということ。

桂と勝海舟がつながっていること。

あたしがこの時代の人間ではないことがばれていること。

そしてあたしがそちらに行くのと引き換えに新撰組の解散を辞めさせられるかもしれないこと…。


山崎さんはあたしが話すごとに顔色を変えていったけど、一言も話を止めようとしなかった。

すべてを話し終わった後あたしたちはずっと黙ったままだった。

「…」

「…」

ただ沈黙だけがあたりを支配して、外からご近所の夕食の団らんの声がかすかに聞こえてくる。

それは幸せの象徴みたいに感じられてあたしは思わず泣きそうになった。

どちらに進んでも辛い道になることはわかりきっている。

でも、選ばねばならない、ううん、もう進む道は決まっているから後は覚悟を決めていかなければならない。

あたしは裏切るんだ。

大好きだから。

みんなが大好きだからみんなが誠のために走っていけるようにあたしは後押しをしよう。


あたしたちはそのまま夜が更けるまでずっと一言も口を利かなかった。


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