第一章 10.女の意地
衝撃の勘違いから少したって、日がかなり落ちた時、
あたしの処遇と覚悟が決まりつつあった。
すべての隊士に男装で通すのはさすがに無理があるから、
一応女であることを幹部クラスまでには伝えるとのこと。
ただし女扱いはしない。
仕事こそ内向きの仕事にするものの、稽古にも参加して隊士としての役割を果たす。
これはあたしが望んだ譲らない条件だ。
ただの無駄飯食いになるつもりはない。
今日の質素な朝食でひしひしと感じた。
きちんと役割を果たさねばと。
女人禁制の隊に女として身を置くことはできない。
でも私が男になることはできない。
だから男と同じだけの働きを、ううん、それ以上の働きをしてみせる。
女だから、とかそんなんじゃなく、あたしは、「水瀬真実」という一人の人間としてきちんと向き合おうと思っている。
だってこの時代に何も持たないあたしはそうすることでしか生きていけない。
とそんな旨を近藤先生と土方さんに伝えた。
近藤先生と土方さんは、あたしを紹介するために幹部を部屋に集めた。
土方さんの部屋は6,7畳で幹部の人が7人も集まってしまえばぎゅうぎゅう、寿司づめ状態だ。
さっき飛び出していった沖田さんも隅のほうでむくれている。
「みんなも知っていると思うが、新しく入隊した水瀬だ。」
「さっき総司と試合した奴だろ?」
「顔は好みだが、肉付きがよくねえ。」
「何の話してんだよ」
「話はまだ終わっちゃいねえ、
始めに言っておくがこいつは女だ。」
「「「「「????」」」」」」
みんなの顔に一瞬?が浮かび、すぐにぼさぼさの髪のワイルドなイケメンが顔を口にして笑いだした。
「土方さんも冗談言うようになったなあ。
でも冗談きついぜ。こいつのどこが女なんだよ。
顔は奇麗だが腕っぷしもつええし、どこからどう見ても男だろ。」
そうくるか!!
この時代の男は何見てんだよ。
そんなに言うなら脱いで見せましょうか?
貧乳ですけど、ちょっとはありますから!
他の人も反応はまちまちだが総じて「何の冗談?」という気持なのだろう。
「みんなが信じられないのも無理はねえが、確かにこいつは女だ。
総司が壬生寺で倒れていたところを拾ってきたが、雷にやられたらしく記憶が曖昧だ。
何かと不都合もあるかとは思うが、監視の意味でもここに置こうと思う。
こいつの剣の腕は俺たちに助力するだろうし、何かと使えるから女を特別に隊士にした。
全員に隠し通すのは無理だからおまえたちだけには事実を話しておく。」
みんなだんだん事実に気付いたのか、驚いてあたしと土方さんを交互に見ている。
「「「うそだろ!!」」」
そんなに否定しなくてもいいのに。
あたしって一体???
「ただいまご紹介にあずかりました、水瀬真実です。
もう一度言いますが女です。
稽古も隊務もきちんとこなしますので、
ふつつかものですがよろしくお願いいたします。」
そう言ってあたしは頭を下げた。
もうヤケクソだ。
「みな混乱することもあるかも知れないが、私が信じた子だ。よく導いてくれ。」
近藤さんが言った。
私が信じた子だなんて、なんてこと言ってくれるんだろう。
あたしは目頭が熱くなった。
それから、山南さん、原田さん、永倉さん、井上さん、藤堂さん、斎藤さんが自己紹介をして
みんな仕方なくという感じだったけど、とりあえずは認めてもらえたみたいだ。
沖田さんはあたしと目も合わせないで
「昨日もう名前は言いましたから」
と冷たく言って場の空気を凍らせたけど。
これがあたしの新撰組の歴史のⅠページ。
女は意地と度胸!!!
これから頑張るしかない。