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最終話:夢の跡

1. 審判の日

国民投票の日。日本中の投票所には、かつてないほどの長い列ができていた。

ドランプ大統領の罵倒、中国・ロシアによる軍事演習の激化、そして世界中から浴びせられる「日本孤立」の懸念。

テレビもSNSも、佐野源助が煽った「自立」への熱狂で溢れかえっていた。

だが、開票が始まった瞬間、官邸の空気が凍りついた。

「……否決、だと?」

画面に並ぶ数字は、佐野の予想に反して極めて「冷静」だった。

若者たちは熱狂したが、沈黙を守っていた大多数の国民は、最後に足を踏みとどまった。核を持つ恐怖、世界から孤立する絶望、そして今の「不平等だが穏やかな日常」を失うことへの拒絶。

国民は、佐野が用意した「劇薬」を飲み干すことを拒んだのだ。

2. 四面楚歌

否決の報が世界を駆け巡っても、失われた信頼は戻らなかった。

ヨーロッパ諸国は「核武装を検討した国」として日本への投資を引き揚げ、中国・ロシアは「危険な隣人」として経済封鎖を強めた。

ドランプはX(旧Twitter)で追い打ちをかける。

『日本は自ら混乱を選んだ。もはや助ける義理はない。グッバイ。』

国内は未曾有の不況とインフレに襲われ、昨日までの佐野への熱狂は、手のひらを返したような激しい「罵倒」へと変わった。佐野源助という男は、一瞬にして日本を地獄へ叩き落とした「戦犯」に祭り上げられた。

3. 回帰と終焉

「……私の負けだ」

佐野は潔く総辞職を宣言し、衆議院を解散した。

その後に行われた総選挙。結果は火を見るよりも明らかだった。

国民が選んだのは、かつての「自由民社」だった。

「やはり、我々にはこの『瓶の蓋』が必要なんだよ」

返り咲いた高森首相が、再びアメリカに頭を下げ、地位協定の維持と傘の継続を請い願う。日本は再び、戦後という名の「微睡まどろみ」の中へと帰っていった。

4. エピローグ

数ヶ月後。

東京の片隅にある小さな公園。

ベンチに座る一人の男がいた。

かつて世界を震撼させた元総理、佐野源助だ。

彼は、どこにでもあるコンビニのカップコーヒーを手に、通り過ぎる人々を眺めていた。

人々は再び、地位協定の理不尽さも、核の脅威も忘れ、24時間営業のコンビニで買い物をし、平和な日常を謳歌している。

佐野は一口、コーヒーを啜った。

「……少し、苦すぎるな」

彼が守りたかった「日常」は、結局、彼が壊そうとした「依存」の上にしか成り立たないものだった。

佐野は空になったカップをゴミ箱に捨てると、一度も振り返ることなく、雑踏の中へと消えていった。

戦後体制の牙は、一度も剥かれることなく、静かに折れた。

日本には、またいつも通りの、退屈で穏やかな朝が来る。

(完)

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