第3話:運命の総選挙
1. 崩落の前兆
テレビの開票速報特番。画面に並ぶ「自由民社」の候補者たちの名前には、次々と「落選」を意味する×印が刻まれていく。
事前の情勢調査で「与党壊滅」という予測は出ていた。だが、これほどまでとは。長年、この国の政治を支配してきた老舗政党が、まるで砂の城のように音を立てて崩れていく。
その一方で、佐野源助率いる「民社党」の議席は、爆発的な勢いで伸び続けていた。
2. 呉越同舟の連立交渉
開票が進む最中、佐野は都内ホテルの奥まった一室にいた。
目の前には、本来なら主義主張が水と油であるはずの保守派小政党や、リベラル勢力のリーダーたちが並んでいる。
「佐野さん、あんたの党は左寄りのはずだ。それがなぜ、日米地位協定の破棄なんていう『右』の極地のようなスローガンを掲げる?」
一人のベテラン議員が問いかける。佐野は冷めたコーヒーのカップを見つめたまま、低く答えた。
「右も左も、死んだ言葉です。沖縄で少女が殺され、我々の司法が基地の門前で追い返された。あの瞬間から、この国には『主権を守るか、捨て続けるか』という二つの選択肢しかなくなった。……違いますか?」
佐野の言葉に、部屋が静まり返る。
民社党という左派の看板を掲げながら、彼は「真の独立」という最も純度の高いナショナリズムを燃料に、国民の怒りを組織化していた。
3. 日本の「180度転換」
「戦後体制」という名の盾が壊れ、国民は一つになっていた。
かつてデモ隊が左右に分かれて争っていた路上では、今や同じ旗が振られている。
「我々に司法を。我々に尊厳を」
それはイデオロギーの戦いではなく、奪われた「当たり前の権利」を取り戻そうとする本能的なうねりだった。キッシンジャーがかつて畏怖した、日本の「急激な方向転換」が、今まさにこの選挙を通じて完遂されようとしていた。
4. 審判の刻
深夜、民社党本部の会見場。
無数のカメラのフラッシュを浴びながら、佐野源助が壇上に立つ。
「自由民社」は過半数を大きく割り込み、歴史的な大敗を喫した。
代わって、佐野を首班とする「救国連立政権」の誕生が確実となった。
「……本日、日本は新しく生まれ変わりました」
佐野は淡々と、だが全土に響き渡る声で宣言する。
「明日、私はドランプ大統領に電話を入れます。おべっかを使うためではありません。……対等な友人として、契約の『再交渉』を申し出るためです」
画面の向こう、ワシントンではドランプ大統領が眉間に皺を寄せ、北京とモスクワでは指導者たちが不気味な沈黙を守っている。
戦後80年。
瓶の蓋は、ついに内側から蹴り破られた。




