四角い物語
ある日のことです。
私は電車に揺られておりました。
どこへ向かうのかといいますと学校です。
片道30分間、周りはサラリーマンばかり。
それもそうです。
朝は通勤ラッシュです。
ある日のことです。
流れるように車両の真ん中へ着いた私の前の座席には若い母と子が座っておりました。
若い母は私を見てため息をつきました。
何故でしょう、自分ではわかりません。
子をひざの上に乗せて窮屈そうに座っておるのです。
次の駅で珍しくおばあさんが乗ってこちらに流れてきました。
誰も譲りません。
このおばあさんはなかなか華奢な身体をしていました。
私に背を向けてつり革に頼って立っていました。
次の駅で若い母は子をひざの上から下ろしました。
子が小さくくしゃみをして、私はあばあちゃんに席を譲りました。
若い母からまたため息が聞こえました。
何故でしょう、自分ではわかりません。
私は半歩後ろに下がってサラリーマンの間へ入りました。
ある日のことです。
おばあさんが降りるとき「ありがとう」とお礼を言われるまで、ずっと後ろを向いていました。