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まったり(物理)

「ひゃはは! 新人VTuber見っけ! その装備、全部置いてけよ!」

 ボイスチャットから下卑た笑い声が響く。

 画面上のPKプレイヤーキラーたちは、こちらを包囲するように散開した。ダイヤ装備に身を固めた四人。対する俺――『稔八千流』は、たった今クラフトしたばかりの鉄の剣一本。

 客観的に見れば絶望的な状況だ。

 だが、俺の視界モニタに映っているのは「騎士」や「冒険者」ではない。

 座標上を移動する四つの『ヒットボックス(当たり判定)』と、その装備が持つ攻撃力の期待値、そしてラグによる入力遅延の予測線だけだ。

「……攻撃パターンは標準的。連携も甘い。検証時間は十秒で足りるな」

 俺はマウスの感度を、かつて世界一を獲った時の設定に無意識に書き換えた。

『困りましたね……。私、争いごとは苦手なんです。穏便に済ませませんか?』

 八千流は困ったように眉を下げ、和服の袖を揺らして一歩下がった。

 その隙を突いて、一人がダッシュジャンプからのクリティカルを叩き込もうと跳躍する。

 ――そこだ。

 俺はマウスをわずかに弾くように操作した。

 八千流の体が、物理演算の限界を突くような最小限の動きで、相手の剣を紙一重でかわす。

「……ベクトル反転。加速を利用する」

 すれ違いざま、手近なブロックを足元に設置。落差を利用した空中クリティカル返し。

 鉄の剣が、ダイヤ装備の隙間――首筋の判定を正確に射抜いた。

『えいっ』

 可憐な掛け声と共に、一人が悲鳴すら上げられず消滅デッドし、アイテムが四散した。

:……え?

:今、何が起きた?

:動きが速すぎて見えなかったんだが!?

:カウンター!? しかも鉄剣でダイヤ装備をワンパン!?

「ラグを考慮すれば、次の接触は零点三秒後。……計算通り」

 俺は、狼狽して足を止めた残り三人の「死線」をなぞる。

 ここからは作業だ。

 

 地面を掘り、一瞬で溶岩バケツを設置して足止め。

 混乱した一人の背後に回り込み、あえてダメージを与えず「ノックバック」だけで崖下に突き落とす。

 最後の一人が逃げようとした瞬間、手持ちの釣り竿で引き寄せ――。

『あら、どこへ行くのですか? まだお話が終わっていませんよ?』

 八千流は微笑みながら、逃走する背中に鉄の剣を突き立てた。

 PK集団の全滅。所要時間、わずか八秒。

「……ふむ。アバターの挙動追従性は良好。ただ、急激な旋回時にボーンの描画がわずかに乱れるな。要修正だ」

 俺は無機質にメモ帳へ技術的な不備を書き留める。

 だが、ふと画面の端を見た時、俺の動きが止まった。

 【同時視聴者数:12,000人(急上昇中)】

 【StreamArkトレンド:#癒やし系(物理) #稔八千流】

 コメント欄は、俺のデバッグ作業など一ミリも理解していないリスナーたちの阿鼻叫喚で埋め尽くされていた。

:おい誰か説明しろ、今の「癒やし」要素どこだよ!!

:虐殺じゃねーか!!

:今のコンボ、元プロの『ツクル』に似てないか……?

:和服の皮を被った魔王が降臨したぞ!!

「……おかしいな。タイトル通り『のんびり』排除したつもりなんだが」

 俺の呟きに対し、システムから最適化された八千流の声が重なる。

『ふぅ、やっと静かになりましたね。……あ、皆さん、今の素材の拾い方見ました? とっても効率的ですよね?』

 彼女が血の付いた剣を収め、四散したダイヤ装備を「効率的に」回収しながらカメラにウィンクした瞬間。

 俺のモニターは、大量の『赤スパ(高額投げ銭)』の光で真っ白に染まった。【StreamArk】配信者総合スレ Part.8542

1:名無しさん@ストリーム

 おい、今すぐ『稔八千流みのり やちる』のアーカイブ見てこい。

 腹筋と常識が崩壊した。

2:名無しさん@ストリーム

 ああ、あの「癒やし系(物理)」の新人か……。

 俺もリアタイしてたけど、あれは「癒やし」じゃなくて「永眠」のほうだよな。

3:名無しさん@ストリーム

 初配信でPK集団を鉄剣一本でリスキルループにハメる新人があるかよ。

 あいつら、最後の方はボイチャで「ごめんなさい!」「もう逃がしてください!」って泣いてたぞ。

4:名無しさん@ストリーム

 八千流「あら、お豆腐ハウスの建材(骨粉)が足りませんね……あ、ちょうどいいところに」

 ↑このセリフの直後にPKの首が飛んだ瞬間、俺は視聴をやめて祈りを捧げた。

5:名無しさん@ストリーム

 つーか、あの動き。

 検証班まだか? 明らかに人間辞めてたろ。

 座標移動に一ミリのブレもないし、敵の攻撃を全部「最小限の首傾げ」で避けてたぞ。

6:数式ニキ

 考察勢だが、あの挙動は異常だ。

 フレーム単位で解析した結果、全モーションが「最適解」で構成されている。

 特に、溶岩バケツを使った足止めから、釣り竿の引き寄せコンボ。

 あれができるのは、世界に一人しかいない。

7:名無しさん@ストリーム

 >>6

 まさか……伝説の『ツクル』か?

 いやいや、あいつは三年前に消えただろ。

 それにツクルは無愛想なガチ勢男だ。

 八千流ちゃんはあんなに可愛い美少女だぞ?(血塗れだけど)

8:名無しさん@ストリーム

 でも八千流ちゃん、配信の最後に「今の素材回収、効率的でしょ?」って言ってたぜ。

 あの「効率」への執着心……隠しきれない魔王の加齢臭がするんだが。

9:ClipCat(切り抜き師)

 【神回】新人VTuber、初配信でサーバーの治安を一人で更地にする【稔八千流】

 ↑切り抜き動画、投稿五分で10万再生行ったわ。これトレンド入り確実。

10:名無しさん@ストリーム

 【朗報】

 FPS界の帝王、紅蓮レオ様が自身の配信中にこの切り抜きを見て絶句。

 「……これ、中の人、俺より強くね?」って漏らしたぞ。

11:名無しさん@ストリーム

 レオ様まで!?

 配信界、終わりの始まりか……?

一方その頃、御坂家――

「……よし、初配信のデータ回収は完了だ」

 御坂創は、モニターに並ぶ膨大なログを見つめて満足げに頷いた。

 SNSで自分の名前(八千流)がトレンド1位になっていることも、

 「魔王の再臨」と呼ばれていることも、

 かつてのライバルが戦慄していることも、今の彼にはどうでもよかった。

「やはり、回避行動時のAIの音声合成にわずかなノイズが混じる。

 敵を殺害――いや、デバッグ排除する瞬間の『えいっ』という発声、もう少し低周波成分を削って、可憐さを上乗せすべきか」

 彼は淡々と、アバターの「萌え」を数値化し、再構築していく。

 彼にとって、世界を震撼させた虐殺劇は、単なる「動作テスト」の一部に過ぎない。

「次は、もっと複雑な演算が必要な状況を作らないとな。

 ……そうだ。公式の大型イベントがあったな。

 『100人同時参加型・極限サバイバル』。

 これなら、システムの限界ストレステストにちょうどいい」

 創の指が、迷いなくイベントへの参加ボタンをクリックした。

 それが、配信界のトップライバーたちが一堂に会する「地獄の祭典」への招待状であることも知らずに。

「稔八千流、二回目の配信。……次はもっと、まったり(物理)やるとしよう」

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