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婚約破棄された生活魔法の天才ですが、隣国で魔法特許都市を作ったら世界経済を支配してしまいました  作者: くま3
第1章 婚約破棄編

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第8話 王国の未来

「リリア。お前は、今のこの王国が抱える『致命的な弱点』が何かわかるか?」


 父、アルヴェルト辺境伯は、重厚な書斎の壁一面に掛けられた巨大な王国全図を、

 指先でなぞるようにして指差した。


 その地図には、無数の軍事拠点や要塞が赤い斑点のように強調され、

 街道よりも行軍路が優先的に描かれている。

 それは、一見して軍事大国としての威容を誇っているようでいて、

 その実、ひどく歪な国家の形を曝け出していた。


「……軍事への過度な偏重、そしてそれによる内政の軽視でしょうか」


 私が慎重に答えると、父は深く、地鳴りのような吐息をついて頷いた。


「その通りだ。現在のアルヴァレード王国は、

 あろうことか国家予算の八割以上を軍事魔法の研究と維持、

 そして兵力の増強にのみ注ぎ込んでいる。

 その結果として何が起きたか? 国内の産業は見るも無残に衰退し、

 民の命を繋ぐ農業は数十年もの間、進化を止めたまま停滞しているのだ」


 父は地図の一点を、骨ばった指で強く叩いた。

 そこは、かつて王国一の豊穣を誇ったはずの広大な穀倉地帯だった。


「水不足が起きれば、高位の魔導師を無理矢理呼びつけ、

 膨大な魔力を浪費して一時的に雨を降らせるだけ。

 不適切な開墾で土壌が痩せれば、力尽くでさらに森を拓く。

 そこには持続性など微塵もない。力で全てを捻じ伏せようとする、

 その場しのぎの、野蛮で愚かな政治がまかり通っているのだよ」


 父の吐き捨てるような言葉は、王国の腐敗した核心を的確に突いていた。

 軍事魔法は、どこまで行っても「破壊」と「殺戮」のための力だ。

 しかし、国家という巨大な生命体を維持し、成長させるために真に必要なのは、

「創造」と、そして日々の営みを支える「維持」の力である。


「食料の長期保存ができず、物流も魔物の脅威にさらされたまま。

 魔力資源は軍に独占され、民の生活は貧しくなる一方だ。

 今の王国は、外見だけは立派だが、中身が腐り落ちて空っぽになった

 巨大な古い鎧のようなものだ。

 その重みに耐えかねて一度膝をつけば、彼らにはもう、

 自力で立て直す術など残されてはいない」


 父は地図から離れ、私に向き直ると、射貫くような強い眼差しで告げた。


「リリア。お前が嘲笑を浴びながらも、独り黙々と磨き続けてきた生活魔法。

 それこそが、本来この国に最も必要とされていた『救い』だったのだ。

 魔力消費わずか0.01%で広域の水を浄化し、

 誤差のない精密な温度管理で食料と住環境を劇的に改善する。

 それがもたらす天文学的な経済効果、そして民の幸福度の向上を……

 あの視野の狭い王太子には、逆立ちしても理解できんのだ」


 父は悔しげに、みしりと音を立てて拳を握りしめた。


「軍事魔法至上主義という狂信の果てにあるのは、財政破綻と国家の崩壊だ。

 生活という最も強靭な基盤インフラを、

 『お冷』と笑って捨て去った国に、未来を語る資格などない」


 私は、父の静かな激昂を聞きながら、王都の煌びやかな大広間で浴びせられた

 氷のような嘲笑を思い出していた。

「お冷」を作るだけの魔法。役に立たない、女子供の遊び。


 しかし、現実はあまりにも残酷なまでに逆転していた。

 本当に役に立たないのは、平和な時代において破壊の力にしか価値を見出せず、

 民の腹を満たし、健やかな眠りを与える術を知らない、

 あの傲慢な権力者たちのほうなのだ。


「お父様。私は……この魔法の本当の価値を証明したいです。

 それが、私を育ててくれたこの国に対する、最後のけじめだと思うから」


「ああ。この国がお前を不要だと捨てたというのなら、

 別の場所でその真価を、世界に見せつけてやればいい」


 父は静かに、しかし断固とした口調で、私の背中を押すように言った。


「リリア。隣国の噂を聞いたことはあるか?

 『鉄血』と恐れられながらも、近年、驚異的な発展を遂げているという

 新興の帝国についてだ」


 父の口から出た、未知なる「隣国」という言葉。

 それが、私の運命を、そして捨て去った王国の行く末を大きく変える

 巨大な転換点パラダイム・シフトとなることを。


 この時の私は、まだ予感することすらできていなかった。

挿絵(By みてみん)

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