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婚約破棄された生活魔法の天才 隣国で魔法特許都市を作ったら世界一の国になりました  作者: もりのなか
第1章 婚約破棄編

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第7話 辺境伯の娘

「よく帰ってきた、リリア。……辛い思いをさせたな」


 王都の喧騒から逃れるように馬車を走らせること数日。

 ようやく辿り着いたアルヴェルト辺境伯領の屋敷で、私を待っていたのは、

 長旅の疲れを労う父の、低く温かな声だった。


 私の父、アルヴェルト辺境伯。

 王国の北方に位置し、凶暴な魔物たちが跋扈する境界線を守護し続ける、

 軍事貴族の重鎮である。

 同時に、厳しい自然環境の中で領民を統治し、

 現実的な利害を見極める鋭い審美眼を持った政治家でもあった。


「お父様、申し訳ありません。王太子殿下との婚約を、私の不徳で……」


 私が深く頭を下げようとした瞬間、

 父の大きな、節くれ立った手が私の肩を優しく、しかし力強く抱き寄せた。


「謝る必要などどこにある、リリア。

 すべてはあの愚かな王太子の、思慮の浅い独断に過ぎん」


 父の瞳には、静かな、しかし一度火がつけばすべてを焼き尽くさんとする

 激しい怒りの炎が宿っていた。

 私を労る優しさの裏側で、家門の誇りを傷つけられた武人としての憤怒が

 煮えたぎっているのが伝わってくる。


「公衆の面前での卑劣な婚約破棄。

 あまつさえ、国王陛下と王妃殿下の不在という隙を突いた身勝手な振る舞い……。

 これはもはや、我がアルヴェルト家への侮辱という次元ではない。

 王家と貴族の信頼関係を根底から覆す、重大な外交問題だ」


 父は書斎の重厚な机を拳で叩き、吐き捨てるように言葉を続けた。


「魔物と対峙し、国境を命懸けで守る辺境伯を軽視し、一方的に縁を切るだと?

 王太子は、統治というものが、政治というものが何たるかを、

 微塵も理解していないようだ。

 単なる力の誇示が政治だと勘違いしているのなら、あまりに幼稚すぎる」


 軍事至上主義という歪んだ熱狂に染まり、目に見える破壊の力のみを信奉する、

 王都の温室育ちの貴族たち。

 しかし、実際に泥にまみれ、吹雪の中で前線を維持し続ける父は、

 勝利のために、そして人々の生存のために何が必要かを、誰よりも熟知していた。


「リリア。お前の魔法を見せてくれ。

 王都の、戦い方すら知らぬ連中が『役立たず』と切り捨てたという、

 その魔法の真髄を、私自身の目で確かめたい」


 私は静かに頷き、父の目の前で、極限まで磨き上げた魔力を練り上げる。


「――清浄水生成クリーンウォーター

 そして、温度固定・保存魔法プリザーブ


 一瞬の沈黙。

 空気中の魔素が私の意図に従って整列し、グラスの中に一点の曇りもない水が現れる。

 私はそれを数秒で「氷点下直前」の、最も密度が高く冷ややかな状態まで冷却し、

 そのエントロピーを停滞させ、状態を完璧に固定した。


 魔力消費量は、わずか0.01%。

 王都の魔導師が一点の氷を作るのに浪費する魔力の、百分の一にも満たない効率。


 父はその光景を、一瞬たりとも見逃すまいと目を見開いて注視していた。

 やがて、その表情が驚愕に塗り替えられる。


「……信じられん。これほどの高効率、そして精密さか。

 魔力の揺らぎが、まったく……いや、一切の無駄なく制御されている」


 政治家であり、現場の過酷さを知る一線の武人でもある父は、

 瞬時にその技術の「真価」を理解した。


「リリア。お前の魔法は、決して『お冷』などという卑小なものではない。

 これは行軍する軍の移動速度を根本から変え、

 不毛な地にある都市の寿命を劇的に延ばす……。

 国家の根幹を支えるための、最も強靭な『基盤インフラ』だ」


 父は私の両手をしっかりと握り、噛みしめるように告げた。


「この腐りゆくアルヴァレード王国に、お前を置いておくのはもったいない。

 彼らは自らの手で、国家の至宝を泥の中に投げ捨てたのだ。

 その代償がどれほど高くつくか、奴らは想像もしていないだろう」


 父の言葉に、王都で凍りついていた私の心は、初めて救われたような気がした。

 私の歩んできた道は、間違いではなかったのだと。


 しかし、父の怒りはまだ収まりきってはいない。


「この件、断じてただでは済まさん。

 王が外遊から帰還された時、王太子は己の無知が招いた災厄を、

 その骨の髄まで思い知ることになるだろう」


 父の重厚な声は、静かな嵐の前触れのように書斎に響いた。


 この日を境に、私は自分の進むべき道を明確に定め始めた。

 私を、そして私の魔法を拒絶したこの国に、もはや未練はない。

 私は私の価値を証明し、世界を真に豊かな場所へと導くために、

 新たな旅立ちの準備を始めることを決意したのだ。

挿絵(By みてみん)

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