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婚約破棄された生活魔法の天才 隣国で魔法特許都市を作ったら世界一の国になりました  作者: くま3
第1章 婚約破棄編

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第5話 公開婚約破棄

「リリア・フォン・アルヴェルト! 前へ出よ!」


 王太子アルドリックの、鼓膜を震わせるほどの怒声。

 それが合図だったかのように、先ほどまで不気味な静寂に包まれていた大広間が、

 一転して冷ややかな熱狂に支配された。


 壁際を埋め尽くすように居並ぶ、着飾った貴族たち。

 その一人ひとりが向ける視線は、もはや好奇心などという生温かいものではない。

 それは、弱った獲物を集団でなぶり殺しにしようとする、

 残酷な捕食者の色を帯びて私に集中していた。


 私は震える足に力を込め、重いドレスを引きずるようにして、

 冷酷な審判が待つ壇上の前へと進み出た。


 壇上では、アルドリックが侯爵令嬢ミレイナの細い腰を、

 これ見よがしに、そして堂々と抱き寄せている。

 彼は勝利者の凱歌を上げる英雄のような、

 あまりに無慈悲で勝ち誇った表情を私に突きつけた。


「リリア。貴様との婚約を、今この瞬間、この場をもって、

 正式に――そして永久に破棄することを宣言する!」


 広間に放たれたあまりに一方的な宣告。

 その残響が消えぬうちに、周囲からは待機していたかのような

「当然だ」「身の程知らずめ」「ふさわしくない」という嘲笑が、

 重苦しいさざ波となって四方八方から押し寄せてきた。


 私は指先まで凍りつくような感覚を覚えながらも、

 アルヴェルト家の誇りにかけて背筋を伸ばし、静かに、一点の曇りもない声で問いかけた。


「殿下……。重ねてお伺いいたします。

 この婚約破棄は、本当に国王陛下の御意志なのでしょうか?」


「しつこいぞ、リリア!

 父上と母上は外遊中であり、この国の政務はすべて私の掌中にある。

 全権委任を受けている私の判断こそが、現時点における王国の意志だ!」


 アルドリックは嘲笑混じりに鼻を鳴らし、広間の端々にまで届くよう、

 あえて劇場型の大きな声で言い放った。


「これは、我がアルヴァレード王国の輝かしい未来のための、

 苦渋の、しかし断固たる決断なのだ!

 軍事至上主義を掲げる我が国にとって、戦う術を持たぬ王妃など、

 国家の成長を阻害する負債、あるいは足枷でしかない!」


 その言葉に合わせるように、軍事魔法の天才と持て囃されるミレイナが、

 扇で口元を隠しながら、クスクスと鈴を転がすような笑い声を漏らした。


「本当にその通りですわ。リリア様……。

 戦場に冷えた『お冷』を運ぶことしか能がないような女性が、

 高貴なる王妃の座を汚し続けるなんて。

 この国、そして誇り高き騎士たちに対する、最大の冒涜だと思いませんか?」


 その言葉が呼び水となった。

 日和見主義の貴族たちは、待ってましたと言わんばかりに、

 一斉に非難の声を上げた。


「その通りだ! 生活魔法など、平民が小銭を稼ぐための小細工ではないか!」

「王家に連なる者が、そんな無価値な術に執着するなど、恥を知れ!」

「軍事魔法の使えない無能は、さっさと辺境の泥の中にでも引っ込んでいろ!」


 降り注ぐのは、鋭く研がれた悪意と、無知ゆえの嘲笑。

 この国の経済を、兵站を、人々の暮らしという根本インフラを、

 魔法という技術で支えようとしてきた私の数年間の努力と研究は、

 今、完膚なきまでに踏みにじられ、汚泥の中に捨てられたのだ。


 アルドリックは、絶望に打ちひしがれているであろう私を見下し、

 冷徹な最後通牒を突きつけた。


「リリア。貴様はもはや、王族に連なる資格を完全に喪失した。

 今この瞬間から、貴様は不浄の存在だ。

 一刻も早く、我が視界から、この清浄なる王宮から去るがいい!」


 私は、こみ上げるすべての感情を胸の奥深くに封じ込め、

 ただ静かに、深々と一礼した。


 もはや、この思慮の浅い男と言葉を交わす必要はない。

 そして、この腐りきった国に誠意を尽くす理由も、これ以上は存在しない。


 私は感情を殺し、鉄の仮面を被ったかのような無表情のまま、

 凛とした歩調で翻り、大広間の出口へと向かって歩き出した。


 背後からは、新しい婚約者たちを称える狂信的な歓声と、

 私という「負け犬」を追い出すための罵声が、いつまでも、いつまでも鳴り響いていた。


 しかし、私の心は不思議なほどに凪いでいた。

 私は、確信していたのだ。

 軍事という名の「暴力」にのみ執着し、

 人々が健やかに生きるための「生活」を軽視するこの国が、

 これからどのような悲惨な末路を辿ることになるのかを。


 そして私は、自らの魂に誓うように決断した。


「役立たず」と蔑まれた、愛しき私の魔法と共に。

 私は、この救いようのない王国を捨てる。

 私を、私の技術を本当に必要とする場所へ、私は私の意志で歩んでいくのだと。

挿絵(By みてみん)

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