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婚約破棄された生活魔法の天才 隣国で魔法特許都市を作ったら世界一の国になりました  作者: くま3
第2章 追放と旅立ち

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第17話 亡命決断

 辺境伯領の静寂に包まれた執務室にて。

 私は父アルヴェルトを真っ直ぐに見据え、自らの進むべき道を明確に提示した。


「お父様。私は、隣国アルディナ王国へ行くことを決意いたしました」


 私の言葉に、父は驚く様子も見せず、深く、静かに頷いた。

 その瞳には、愛娘を手放す悲しみよりも、

 その才能が腐った泥沼に沈むことを阻止できた安堵が勝っているように見えた。


「やはり、その結論に至ったか。リリア、お前はこの国に居てはならない。

 ここではもはや、その稀稀なる才能を磨くことも、

 正当に評価されることも、決して叶いはしないのだから」


 父は、王国が抱える構造的な欠陥を改めて苦渋に満ちた声で指摘した。

 アルヴァレード王国は今や、度を越した軍事至上主義の怪物と化している。


 国家予算の八割が「破壊の力」である軍事魔法の研究に注ぎ込まれ、

 それ以外の可能性はすべて「軟弱な遊び」として切り捨てられる。

 だからこそ、リリアが心血を注いで構築した

『魔力消費量0.01%以下』『誤差0.01度以内』という精密制御技術は、

「敵を殺せない」という一点のみで無価値と断じられてきたのだ。



 私は、手元にある『生活魔法カタログ80』の写しを、指が白くなるほど強く握りしめた。


 ・第1カテゴリー「水・衛生革命」

 ・第8カテゴリー「都市インフラ革命」


 そこには、汚水を瞬時に清め、食料の腐敗を物理的に止め、

 都市全体を極寒から守り抜くための、具体的かつ完成された術式が網羅されている。


「私は、この魔法が本当に役に立たないのか、隣国で証明したいのです。

 人を傷つける力ではなく、人を豊かにする力こそが、

 この世界において真に価値があるのだと、あの方々に知らしめたい」


 王太子アルドリックは『生活魔法など王妃には不要だ』と断言し、

 公衆の面前で私を侮辱した。

 彼は政治能力が致命的に低く、国家を維持するために不可欠な

「社会インフラ」という概念を、ただの一欠片も理解していない。


 この国に留まれば、私の特許となり得る80件以上の技術は、

 軍部によって暴力的に握りつぶされるか、

 あるいは腐敗した予算の犠牲となって闇に消えるだけなのだ。



「わかった。リリア、お前の意志を尊重しよう。

 ……いや、お前がその道を切り拓くことを、私は誇りに思う」


 父は椅子から立ち上がり、書斎の奥に隠された金庫から、

 重厚な革袋と、数通の封書を取り出した。


「これは軍用資金としても十分な額の金貨だ。

 そして、隣国で信頼に値する大商人と、私の知己である有力者への紹介状だ」


 さらに父は、私の身の安全を保障するための布陣についても言及した。


「元王国騎士のグランツを筆頭に、腕利きの護衛を五名付ける。

 彼らはいずれも私の命を救った、信頼に足る精鋭たちだ」


 父が私の亡命を全面的に支援すること。

 それは同時に、アルヴェルト辺境伯家が王国中央に対し、

 決定的な決別と不信を突きつけたことを意味していた。


「王国は、お前という『最大の国益』を、自らの手でドブに捨てたのだ。

 そのツケは、いずれ国家崩壊という最悪の形で支払うことになるだろう」


 父の言葉には、将来的に王国と敵対することも辞さないという、

 辺境伯としての凄まじい覚悟が宿っていた。



 私は、生まれ育った故郷を去ることへの一抹の寂しさを感じたが、

 それ以上に、胸を高鳴らせる新しい世界への期待が勝っていた。


 アルディナ王国には、発明者の権利を法で守る『魔法特許』という制度があり、

 技術者が貴族並みに尊重される先進的な文化があるという。

 そこへ行けば、私の魔法は二度と「お冷運び」と笑われることはない。


「ありがとうございます、お父様。私は必ず、生活魔法による産業革命を起こしてみせます」


 私は深く一礼し、父から手渡された準備一式をしっかりと受け取った。

 王太子が捨てた「役立たずの魔法」が、世界経済を支配する絶対的な基盤となる。

 その物語の舞台を、私は自らの意志で隣国へと移したのだ。



 馬車が用意されるまでの短い間、私は最後にもう一度だけ、

 自身の研究ノートをめくり、そこに記された術式を見つめた。


 ・魔力消費0.01%の魔法水道

 ・魔法冷蔵、魔法暖房


 これらが揃えば、国家インフラの八割が成立し、民の生活は劇的に改善される。

 王国が傲慢にも無視し続けた「持続可能な発展」を、

 私は新天地において、揺るぎない現実のものとする。


「この国では、何一つ変えることはできない」


 その判断は、感情論ではない、冷徹な事実に基づいた戦略的撤退だ。

 軍事魔法という底なしの破壊コストに押し潰される旧王国を背に、

 私は「創造」という名の光が待つ隣国へと、力強く歩みを進める。


 これは逃走ではない。

 未来を、そして世界の主導権を掴み取るための、最初の勝利への決断であった。

挿絵(By みてみん)

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