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婚約破棄された生活魔法の天才 隣国で魔法特許都市を作ったら世界一の国になりました  作者: くま3
第2章 追放と旅立ち

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第16話 隣国の噂

「リリア様、隣国アルディナ王国から戻った商人が、

 非常に興味深い話を携えてきております」


 アルヴェルト辺境伯領の商業を長年支えてきた熟練の商人、

 トーマス・ギルドンは、執務室で待機していた私と父の前に、

 情報の重みを感じさせる一通の報告書を恭しく置いた。


 隣国、アルディナ王国。

 それは我が国の東に位置し、これまでは伝統も乏しく、

 魔法技術の面でも「遅れている」と軍部から見なされていた国家である。


 しかし、トーマスが語る現状は、

 私たちがこれまで常識だと思い込まされていたものとは、

 あまりにも大きく、あまりにも衝撃的にかけ離れていた。


「あちらの国では、今や魔法を軍事兵器としてではなく、

 『人々の生活を根底から豊かにする技術』として評価する文化が、

 信じられないほどの速さで広まっているのです」


「……軍事魔法の破壊力よりも、魔道具の発明や産業への応用を重視している、だと?」


 父、アルヴェルト辺境伯は、トーマスの言葉の断片すら逃さぬよう、

 軍人特有の鋭い視線を報告書へと向けた。


 無理もない。アルヴァレード王国では、国家予算の八割が軍事魔法に投じられている。

 そこでは「破壊」こそが魔法の至高の本質であり、

 生活に密着した技術は「卑俗な余興」として切り捨てられてきたからだ。


「アルディナ王国には、世界でも類を見ない

 『魔法特許マジック・パテント』という制度が芽生え始めているとのことです」


 トーマスは、自らの商魂が震えるのを抑えきれない様子で身を乗り出した。


「発明した新しい術式や、革新的に改良した魔法を国に登録すれば、

 その権利は法によって厳格に保護されます。

 他者がその魔法を無断で使用したり、魔道具化して販売したりすることは許されず、

 使用する際には、発明者に『特許使用料』が支払われる仕組みなのです」


「権利が保護され、富を生む……だと?」


 父の声に、隠しようのない驚きが混じる。

 軍事魔法至上主義のこの国では、優れた魔法はすべて「国家(軍)」に徴用され、

 個人の権利など塵ほども存在しない。

 ましてや生活魔法の研究者に光が当たるなど、天地がひっくり返ってもあり得ない話だった。


 私は、自身の頭脳に構築されている『生活魔法カタログ80』を思い浮かべた。


 ・第1カテゴリー「水・衛生革命」の清浄水生成。

 ・第2カテゴリー「料理革命」の魔法冷蔵と冷凍。

 ・第6カテゴリー「住宅革命」の精密室温調整。


 これらはすべて、既存の術式を根底から見直した

 魔力消費量0.01%以下、誤差0.01度以内という「神の制御」に基づいている。


 王都で「お冷を運ぶだけの無能」と嘲笑われた技術。

 だが、アルディナ王国の制度に照らせば、これらの一つ一つが

 国家のインフラを独占し、莫大な富を生む「最強の特許」へと化けるのだ。


「さらに、アルディナ王国の若き宰相エリオットという男が、

 この革新的な制度を強力に推進しているそうです」


 トーマスの口から出た、エリオットという名。

 彼は経済と政治の天才と謳われ、隣国の魔法制度改革を主導する若き怪物であった。


「エリオット宰相は、『人を傷つける力ではなく、人を豊かにする力こそが

 国家の真の価値を決めるのだ』と公言しているとのことです」


 その言葉は、私を捨てた王太子アルドリックが放った

「生活魔法など王家には無価値だ」という断言とは、完全なる対極にある。

 アルドリックは政治能力が絶望的に低く、国家を維持するために必要な

基盤インフラ」の価値を、何一つ理解できていない。


「アルディナ王国は、優れた技術者を貴族並みに優遇し、多額の報奨金を出している。

 ……リリア。お前の0.01%の効率化魔法は、向こうでは『神の恵み』に等しいはずだ」


 父は私の肩に手を置き、静かだが力強い確信を込めて言った。

「アルディナ王国なら、お前の研究を笑う者は一人もいないだろう」


 私は、執務室の窓から見える、どこまでも澄んだ東の空を見つめた。

 そこには、知恵を尊重し、技術を真の力として認める「新しい世界」がある。


 王太子アルドリックが捨てた「役立たず」の魔法が、世界経済を支配する。

 その物語の舞台は、もはやこの沈みゆくアルヴァレード王国ではない。


 私は心の中で、自分を否定し続けた旧き価値観との決別を、

 そして私を捨てた者たちが、いずれ私の魔法なしでは一日も生きられなくなる

 壮絶な「逆転劇」への一歩を、静かに踏み出した。

挿絵(By みてみん)

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