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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第一章:運命の邂逅と偽りの栄光

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009.偽りの栄光、英雄の深淵

 ベクター侯爵邸は、一夜にして犯罪の証拠の山へと変わった。

屋敷の奥底からは、神聖帝国プロインと内通していた密書が次々と発見された。

誘拐した少女は、帝国への非道な『貢物』。

俺が殺したのは、救いようのない売国奴ばいこくどだった。

それが証明されたはずだった。


 翌日。

王城の奥にある窓もない、息が詰まるような一室で。

俺とカイル、そして国王ルイン・シトラスによる極秘の謁見えっけんが執り行われた。


「ガルシア・オルランドよ。

 お主の働きは見事であった。 

 だが……」


 国王は玉座に深く腰掛け、氷のような冷徹な瞳で俺を貫く。


「侯爵を裁判にもかけず、独断で処刑し屋敷を半壊させた行為は、本来ならば死罪に値する。 

 ……たとえ相手がどれほどの悪党であろうとな」


 部屋を支配する重苦しい沈黙。

国王は身を乗り出し、言葉を継いだ。


「侯爵の悪行の裏は、既にほぼ取れておった。

 王家としては、その捕縛という大功を『勇者カイル』に持たせることで、彼の地位にはくをつけるつもりであったのだ」


 ――やっぱりそうか。

俺の横槍が、国家が描いた完璧な台本を台無しにしたわけだ。


「勇者の親友であるお主が、事件を解決したという真実をおおやけにするわけにはいかぬ。 

 それは『勇者の無能』を喧伝けんでんするに等しいからだ」


 国王の声が、冷たく宣告する。


「そこでだ。 

 この一件はすべて『勇者カイル』の単独功績とする。 

 お主はあくまで、勇者に協力しただけの名もなき民間人として扱う。 

 ……不服はあるか?」


「ありませんよ」


 俺は、カイルが口を開くよりも早く即座に答えた。


「俺は目立ちたくてやったんじゃない。 

 それに侯爵殺害を不問にしてくれるってんなら、むしろ感謝ですよ」


 カイルが、弾かれたように顔を上げた。


「陛下、それは……! 

 本当の功績はガルシアのものです! 

 俺はただ、後から駆けつけただけで…… こんなの、嘘だ!」


「黙りなさい、勇者カイル!」


 国王の怒鳴り声が、部屋を震わせる。


「これは国家の決定である。 

 民は『勇者』という完璧な希望を求めている。 

 お主が救世主であることを疑わせてはならんのだ」


 カイルは拳を血がにじむほどに握りしめ、唇を噛んだ。

その顔に浮かんでいるのは、名声への喜びなどではない。

親友から真実を奪い、偽りの栄光を強制的に押し付けられたことに対する、吐き気のするような『屈辱』だった。


 ――こうして、王都中に凱歌がいかが響き渡った。

『勇者カイル、売国奴の侯爵を討伐す』

その報せは瞬く間に広がり、群衆は狂喜乱舞きょうきらんぶしてカイルの名を呼び続けた。


 王都が熱狂に包まれる中、俺は独り大通りの喧騒から外れた道を歩いていた。

脳裏に焼き付いているのは、カイルのあの歪んだ表情だ。


 あいつは勇者になった。

ならせられちまった。

人々の期待という、一生解けない鎖に縛られた、偽りの勇者に。


 そして俺は――。


『――くふふ。

 真実を知らぬ凡百ぼんぴゃくの民は、勇者を称える。 

 ……しかし真実を知る者たちは、おまえを「英雄」として、あるいは恐ろしい「魔物」として刻み始めたようじゃな』


「……黙れと言ったはずだ、ロキ」


『――さてさて、あの子はどっちなのじゃろうな』


 王都の歓声に混じって響く、ロキの嘲笑。

俺はそれを無視し、宿屋で待つノエルのもとへ急ぐ。


 俺の右手に残る、あの氷のような感覚。

それが消えることは、もう二度とないのだと悟りながら。


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