009.偽りの栄光、英雄の深淵
ベクター侯爵邸は、一夜にして犯罪の証拠の山へと変わった。
屋敷の奥底からは、神聖帝国プロインと内通していた密書が次々と発見された。
誘拐した少女は、帝国への非道な『貢物』。
俺が殺したのは、救いようのない売国奴だった。
それが証明されたはずだった。
翌日。
王城の奥にある窓もない、息が詰まるような一室で。
俺とカイル、そして国王ルイン・シトラスによる極秘の謁見が執り行われた。
「ガルシア・オルランドよ。
お主の働きは見事であった。
だが……」
国王は玉座に深く腰掛け、氷のような冷徹な瞳で俺を貫く。
「侯爵を裁判にもかけず、独断で処刑し屋敷を半壊させた行為は、本来ならば死罪に値する。
……たとえ相手がどれほどの悪党であろうとな」
部屋を支配する重苦しい沈黙。
国王は身を乗り出し、言葉を継いだ。
「侯爵の悪行の裏は、既にほぼ取れておった。
王家としては、その捕縛という大功を『勇者カイル』に持たせることで、彼の地位に箔をつけるつもりであったのだ」
――やっぱりそうか。
俺の横槍が、国家が描いた完璧な台本を台無しにしたわけだ。
「勇者の親友であるお主が、事件を解決したという真実を公にするわけにはいかぬ。
それは『勇者の無能』を喧伝するに等しいからだ」
国王の声が、冷たく宣告する。
「そこでだ。
この一件はすべて『勇者カイル』の単独功績とする。
お主はあくまで、勇者に協力しただけの名もなき民間人として扱う。
……不服はあるか?」
「ありませんよ」
俺は、カイルが口を開くよりも早く即座に答えた。
「俺は目立ちたくてやったんじゃない。
それに侯爵殺害を不問にしてくれるってんなら、むしろ感謝ですよ」
カイルが、弾かれたように顔を上げた。
「陛下、それは……!
本当の功績はガルシアのものです!
俺はただ、後から駆けつけただけで…… こんなの、嘘だ!」
「黙りなさい、勇者カイル!」
国王の怒鳴り声が、部屋を震わせる。
「これは国家の決定である。
民は『勇者』という完璧な希望を求めている。
お主が救世主であることを疑わせてはならんのだ」
カイルは拳を血が滲むほどに握りしめ、唇を噛んだ。
その顔に浮かんでいるのは、名声への喜びなどではない。
親友から真実を奪い、偽りの栄光を強制的に押し付けられたことに対する、吐き気のするような『屈辱』だった。
――こうして、王都中に凱歌が響き渡った。
『勇者カイル、売国奴の侯爵を討伐す』
その報せは瞬く間に広がり、群衆は狂喜乱舞してカイルの名を呼び続けた。
王都が熱狂に包まれる中、俺は独り大通りの喧騒から外れた道を歩いていた。
脳裏に焼き付いているのは、カイルのあの歪んだ表情だ。
あいつは勇者になった。
ならせられちまった。
人々の期待という、一生解けない鎖に縛られた、偽りの勇者に。
そして俺は――。
『――くふふ。
真実を知らぬ凡百の民は、勇者を称える。
……しかし真実を知る者たちは、おまえを「英雄」として、あるいは恐ろしい「魔物」として刻み始めたようじゃな』
「……黙れと言ったはずだ、ロキ」
『――さてさて、あの子はどっちなのじゃろうな』
王都の歓声に混じって響く、ロキの嘲笑。
俺はそれを無視し、宿屋で待つノエルのもとへ急ぐ。
俺の右手に残る、あの氷のような感覚。
それが消えることは、もう二度とないのだと悟りながら。
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