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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第一章:運命の邂逅と偽りの栄光

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007.氷華の断罪、あるいは再会の予感

 貴族街。  

王都ガイアの中でも、そこだけは別世界のような静寂せいじゃくに包まれていた。  

高くそびえる外壁、ぜいを尽くした意匠いしょうを凝らした門灯。  

その中でも、ひときわ悪趣味な輝きを放っているのがベクター侯爵邸であるらしい。


 昼間に見かけた時よりも、今の俺にはあの屋敷が怪物のように見えた。  

あの豪華な石造りの裏で、ノエルのような少女をさらわせていた。


「……ふぅー」


 深く、長く、息を吐く。  

腹の底からせり上がる怒りは、もはや熱を通り越して冷徹な殺意へと変わっていた。  

頭の奥が、氷を詰め込んだようにえ渡っている。


『――くふっ。

 本当に面白いやつじゃな。

 われの加護、その力の使い方を少しだけ教えてやろう』


 ロキの声が、歌うように鼓膜こまくを揺らす。  

それと同時に、脳裏に一つの『型』が浮かび上がった。


『その「氷魔法:氷柱つらら」はな、

 術者の込めた感情の大きさに比例して、その姿と威力を変える。 


 ……さぁ、その怒りをぶつけてみるがよい。

 その忌々《いまいま》しい屋敷ごとな』


 教えられるまま、俺は右手を屋敷の正門へと向けた。  

手のひらから大気を凍らせるほどの極寒があふれ出す。


「……ぶっ壊れろ」


 刹那せつな、視界が真っ白な光に塗り潰された。


 ドォォォォォォォンッ!


 王都全土に響き渡るような、大地を揺らす轟音ごうおん。  

俺の手から放たれたのは、魔法なんて優雅なもんじゃなかった。  

それは、俺の怒りをかてにして巨大化した氷の質量兵器しつりょうへいきだ。

光が収まったとき、目の前の景色は一変していた。  

頑丈なはずの鋼鉄の門は跡形あとかたもなく消失し、あの巨大な屋敷の半分が無惨にひしゃげ、屋敷全体は凍りついていた。


「……はは、なんだこれ……」


 あまりの光景に呆気に取られていたが、逆に冷静さが戻ってきた。

騒ぎが大きくなって、衛兵や ……もしかしたらカイルが来るかもしれない。

その前に片を付けなきゃならない。


 俺は、氷の霧が立ち込める屋敷の中へと足を踏み入れた。

崩落した天井や氷漬けになった調度品を避けて奥へ進む。

屋敷の中は不自然なほど静まり返っていた。

逃げ遅れた使用人や警備の者たちが、声も上げられずに氷の柱と化している。


 ――最奥の、一番大きな扉を蹴り開ける。


 そこには、巨大な氷柱の中に閉じ込められた一体の「彫像」があった。

高級そうな絹の服に身を包み、恐怖に顔をゆがませたまま凍りついた中年太りの男。  

こいつがきっとアトラス・ベクターなのだろう。

奴の最期は、驚くほどあっけなかった。


「……これが黒幕か。

 はぁ、これじゃこのクソが攫わせた《さらわせた》目的も、彼女以外の被害者がいるのかも…… 

 何も聞けねえじゃねーか」


 溜息ためいきをつき、頭の中のロキに文句の一言でも言ってやろうとした、その時だ。


「――っ、ここで何があったんだ!?」


 背後から聞き慣れた、けれど今は一番聞きたくない声が響いた。

俺はゆっくりと肩越しに振り返る。


 そこには、騎士たちを引き連れて抜身ぬきみの剣を手にしたカイルが立っていた。

俺たちの視線が、凍てついた空気の中でぶつかり合う。


「……ガルシア? どうして、お前がここに……?」


 カイルの驚愕きょうがくと困惑に満ちた瞳を見て、俺は曖昧あいまいな苦笑いを浮かべることしかできなかった。



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