004.道化の囁き、氷華の覚醒
視界がじわじわと赤く濁っていく。
路地裏の湿った地面に這いつくばり、俺は遠ざかる覆面どもの足音を聞いていた。
クソ…… 動けよ、俺の体。
指先一つ、力が入らねえ。
カイルと一緒にいたマインの町じゃ、俺が一番強かったはずだ。
あいつが困っていれば、いつだって俺が拳一つで解決してきた。
なのに、いざとなったらこれだ。
勇者に選ばれたカイルと違って、俺はただの力自慢だけの田舎者だったってわけだ。
「……あの子を……
助け…… なきゃ……」
喉の奥から絞り出した声は、誰にも届かずに消える。
情けなくて、悔しくて、涙が出る代わりに腹の底からドロリとした熱い塊がせり上がってきた。
『――ふふっ。
なかなか面白い性格をしているやつじゃな』
不意に、意識の深淵に鈴を転がすような声が響いた。
女の声だ。
ひどく妖艶で、それでいて冬の氷のように冷淡な響き。
『その非力さで、何も考えずに複数人に殴りかかる。
さては、おまえはバカじゃな?』
「……あぁ? 誰だ……。
っ、うるせえ、放っておけ……」
心の中に直接語りかけてくる何者かに俺は毒づいた。
幻聴か、それとも死に際の間が見せる夢か。
『お前みたいなバカは好きじゃぞ。
しかも、その身の程知らずな傲慢さ。
……暇つぶしには、ちょうどいいかもしれないな』
高笑いが響く。
次の瞬間、目の前の景色が歪み、路地裏の闇の中から一人の女が姿を現した。
……いや、現れたように見えただけかもしれない。
そいつは、色彩を奪われたような奇妙な衣装を纏い、道化のような仮面を弄んでいた。
『なぁ、おまえさんよ。
力がほしいか?
すべてを己の望むままにする、そんな力がほしいか?』
「力……?」
その言葉に、俺の魂が跳ねた。
代償が何かなんて考えるまでもなかった。
今この瞬間、あのキツネ耳の少女を救い出せるのなら、悪魔に魂を売ったって構わねえ。
「ほしい!
……くれ!!
あの子を助けられるなら、なんだっていい!」
『くくっ……あはははは!
即答か!
どんな代償があるかも聞かずに!
やはり面白い、最高に愉快なバカじゃな!』
女は狂ったように笑い転げると、ふと真剣な声音で囁いた。
『では、われの加護を与えてやる。
われの名はロキ。
道化の神として、お前の欲望を実現させるための力を授けよう』
その瞬間、全身の血管が沸騰したかのような衝撃が走った。
ボロボロだった体から痛みが消え、筋肉の一つ一つが爆発的なエネルギーで満たされていく。
ただの『力』じゃない。
俺の意志が、世界の理を塗り替えていくような、全能感。
「……これが、力か」
ゆっくりと立ち上がる。
足取りは羽のように軽く、それでいて踏みしめた石畳が微かにひび割れた。
『さて、おまけだ。
あやつらはこの路地裏の奥にある、古びた倉庫をアジトにしている。
早く行かぬと、あの子は別の場所へ運ばれてしまうぞ?』
「……ロキ、だったか。
借りができたな」
『ふふ、せいぜい楽しませておくれよ、英雄候補さん?』
高笑いを残して、女の気配が霧のように消える。
俺は視線を鋭くし、教えられたアジトへと走り出した。
路地裏を抜けた先、見張りの男たちが二人、扉の前に立っているのが見えた。 俺は隠れることもせず、真っ直ぐに突き進む。
「あぁ? さっきのガキか!
まだ生きて――」
言い終わる前に、俺の拳が男の腹を捉えた。
手応えはない。まるで紙を突き破ったかのような軽さだった。
「ごふっ……!?」
男は弾丸のように吹き飛び、背後の厚い木の扉ごとアジトの奥へと消えた。
もう一人の男が腰を抜かして座り込む。
「なんだ……
今の……
人間じゃねえ……」
俺は自分の拳を見つめ、ニヤリと口角を上げた。
これだ。
この力があれば、もう誰にも俺の大切なものを奪わせない。
「……待ってろよ。 今、助けてやる」
俺は、破壊された扉の向こう ――暗いアジトの中へと足を踏み入れた。
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