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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第三章:理想郷の胎動と魔王の戴冠

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032.二重生活の代償

 氷の聖域の静寂を守るためには、莫大な「対価」が必要だった。

数百人が飢えることなく、凍えることなく生きるための食料、医療品、そして地下区画の維持に必要な魔導具の部品。

それらはどれも、祈るだけで空から降ってくるものではない。

すべては「金」と「資源」という生々しい現実に直結していた。


「……また、行ってくる。 ノエル、後は頼んだぞ」


 俺は氷のドームの境界に立ち、ノエルに背を向けて告げた。

彼女は何も言わず、ただ俺のボロボロになったマントを優しく整えてくれる。

その瞳には、俺がこれから「何」をしに行くのか、すべてを察した上での痛切な献身が宿っていた。

 ノエルは、俺が地上で手を汚していることを知っている。

そして俺も、彼女がそれを承知で待っていることを知っている。

この共犯関係だけが、俺の支えだった。


 地上へと続く鉄の梯子を昇れば、そこは欲望と計算が支配する摩天楼の街だ。

俺はフードを深く被り、レオンが指定した裏通りの古い時計店へと足を運んだ。


「おや、時間ぴったりだ。

 仕事熱心なことで助かるよ、ガルシア君」


 レオンは優雅に椅子に腰掛け、一枚の羊皮紙を差し出した。

これまでに数回の依頼をこなす中で、俺とレオンの間には、言葉にせずとも通じ合う「歪な理解」が成立していた。

俺が『掃除』したはずの人間を地下に囲い込んでいることなど、この男の耳に入っていないはずがない。

それでもレオンはそれを議会に売らず、あえて俺を利用し続けている。


「今回の掃除対象は、北西の第四ドックを占拠している武装密輸団だ。

 彼らは議会の許可なく禁制品を扱っていてね。

 君の『冷徹な掃除』で、跡形もなく消し去ってほしい」


「……分かった。

 対価は、先週頼んだ小麦と抗生剤だ。

 地下の指定場所に運び込ませておけ。

 ……お前が何を企んでいようと、物資さえ届けば文句はねえ」


 俺が突き放すように言うと、レオンは愉快そうに目を細めた。


「契約成立だ。

 ……それにしても君も奇特な男だ。

 私の『犬』として泥を被り、その報酬でドブネズミたちを養うとは。

 君が地下に築いている『箱庭』が、いつまで議会の目を盗んでいられるか……

 非常に興味深い投資対象だよ」


 レオンの嘲弄を無視し、俺は店を後にした。


 その夜、第四ドックは音のない極寒に包まれた。

俺の放つ氷は、もはや純白ではない。

どす黒い魔力を帯びたそれは、標的となった密輸団の男たちを慈悲もなく凍てつかせていく。

密輸団たちは氷の塵となり、宙を舞う。

しかし、全員を殺すわけではない。

 密輸団たちに奴隷とされていた者たちを、混乱に乗じて地下へと「回収」する。

俺が地下で「救世主」としての顔を保つたびに、地上の俺の手は逃れようのない罪の冷たさに染まっていった。

聖域を守るために、俺は自ら修羅へと堕ちる。

地下の子供たちが笑うたびに、俺の心の中にある「何か」が、腐った氷のように崩れ落ちていく感覚があった。


 ◇◇◇


 時を同じくして、シトラス王国の辺境。

カイルは王命に従い、かつてないほどに過酷な「魔物討伐の旅」を続けていた。


 そこは、切り立った岩壁が続く死の谷。

巨大な甲殻を持つ魔物の群れを、カイルの放つ聖剣の輝きが一閃のもとに両断する。

 周囲には、カイルを援護するはずだった騎士たちの姿はなかった。

魔物のあまりの強大さに、彼らはカイル一人を囮にして、さっさと後退したのだ。

勇者なら死なない、勇者なら勝てる。

そんな傲慢な「信頼」が、カイルを戦場に孤立させていた。


「……ハァ、ハァ……っ」


 最後の一体を仕留め、カイルは血飛沫の中で膝をついた。

その顔には、かつての温厚な笑みなど欠片も残っていない。

ただ、任務を完遂するためだけの、精巧に作られた人形のような無表情。

 クロス共和国で味わった「入国拒否」という拒絶。

そして、自分を救世主という「象徴」としてしか扱わず、消耗品のように戦場へ投げ出す自国への不信感が、彼の心を内側から削り取っていた。


「勇者様!  お見事です!  さすがは我が国の誇り!!」


 安全な場所から戻ってきた騎士たちが、白々しい賞賛の声を上げる。

カイルは彼らを一瞥もせず、ただ左手の「太陽のあざ」をじっと見つめていた。

かつてガルシアとこの力について語り合った時は、希望に満ちていたはずだった。

だが今、このあざから放たれる輝きは、カイルにとって自分を縛り付ける鎖そのものだった。


「……次の場所は、どこだ」


 カイルの声は、感情を失い、ひび割れた石のように冷たかった。

民の期待、王の野心。

それらを一身に背負い、大陸中にその名を轟かせるたびに、彼は「カイル・シーカー」という一個の人間を殺し続けていた。


 地下で汚れ仕事を請け負う英雄。

 地上で心を殺し続ける勇者。


 二人の距離は、同じ大陸にいながらにして、もはや交わることのない天と地の差ほどに開こうとしていた。

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