030.鉄の掟、魔窟の洗礼
レオンが提示した「廃棄区画の掃除」という依頼。
それはクロスの支配者層の利権のために目障りな弱者を消せという、この街らしい血生臭い契約だった。
翌日。
鉄錆と泥にまみれた地下区画。
そこには、行き場を失った老人、子供、そして他国を追われた亜人たちが、死を待つような瞳で身を寄せ合っていた。
「来るな! ここは、おれたちの……」
震える手で農具を構える男。
その背後では、幼い子供が母親の裾を握りしめている。
俺の隣に立つノエルが、悲しげに瞳を伏せた。
彼女は何も言わないが、俺の服を掴む手がかすかに震えている。
(……こいつらを殺して手に入れる安寧に、何の意味がある)
俺は右手を掲げ、魔力を解放した。
だが、放たれたのは破壊の氷ではない。
地下区画の一部を外の世界から完全に遮断する、工作員たちの侵入を阻む鏡面のように美しい「氷の防壁」だった。
作られた区画は彼らが生活するには十分な広さであり、外部からこの存在を見つけるのはほぼ不可能だろう。
「お前らに居場所がねえなら、俺が作ってやる。
……だが、俺に従え。
俺がここを、誰にも邪魔させねえ場所に変えてやる」
人々は呆然としていた。
だが、俺がその手で、彼らを密かに始末しに来ていた議会の暗殺者を一瞬で氷漬けにするのを見て、彼らは理解した。
この赤髪の男こそが、自分たちの唯一の「希望」なのだと。
そして、それ以外に生きる道がないことも。
俺は議会には「掃除は完了した。死体は氷と共に霧散させた」と偽りの報告を入れた。
俺の魔力特性上、死体が残らないという嘘は容易に信じられた。
依頼達成の報酬として、俺はレオンに一つの要求を突きつけた。
「金の代わりに、特定の人物の入国を永久に拒否させろ。
シトラス王国の勇者、カイルだ。
あいつをこの街の結界に触れさせるな」
レオンは愉快そうに肩を揺らし、即座にその要求を呑んだ。
◇◇◇
それから数日後。
クロスの南門前。
ようやくこの地に辿り着いた勇者カイルは、入国審査官から冷酷な宣告を受けていた。
「入国拒否……?
そんなはずはない、僕はシトラス王国の公式な使者として……」
「理由の如何を問わず、議会の決定は絶対だ。
たとえ勇者であろうと、この国の拒絶は覆せない。
即刻、立ち去れ」
カイルは愕然とした。
聖剣が、門の向こう側から漂う「知った魔力」を感知して微かに震えている。
「……ガルシア、君がやったのか?
僕を、避けているのか……」
カイルは握りしめた拳を震わせ、苦渋の末に踵を返した。
勇者としての名声すら通用しない現実。
そして、勇者であるがゆえに、力で押し通るわけにはいかない。
国を動かし、正式な外交ルートでこの「拒絶」を撤回させなければ、親友に会うことすら叶わない。
こうして、英雄と勇者の再会は、最悪の形で先送りされた。
一方で、クロスの地下深く。
俺の周りには、いつしか俺を「救世主」と持て囃し、「魔人ガルシア」を王と仰ぐ者たちの小さなコミュニティができあがりつつあった。
俺が「魔王」と呼ばれるようになるまで……
――あと、ほんの少し。
「面白かった!」
「続きが気になる!」
「今後どうなるの!?」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!!
面白い!なら☆5つ、つまらない!!なら☆1つ、
正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。
ブックマークも頂けると本当にうれしいですし、はげみになります!
よろしくお願いします!!






