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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第一章:運命の邂逅と偽りの栄光

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003.黄金の都、路地裏の悲鳴

 山道を揺られること数日。  

馬車の窓から見えたのは、俺たちの故郷をいくつ並べても足りないほど巨大な石造りの城壁だった。


 シトラス王国の心臓部、王都おうとガイア。


 門をくぐれば、そこは別世界だった。  

磨き上げられた石畳、天を突くような時計塔、そして見たこともないほどきらびやかな衣装に身を包んだ人々。  

辺境育ちの俺にとっては、街全体が金銀で装飾されているかのような錯覚さっかくを覚えるほどに、まばゆい光に満ちていた。


「すごいね、ガルシア……」


 カイルが隣で息をむ。  

あいつの瞳には、純粋な驚きとそれ以上の不安が混じっていた。  

馬車が止まったのは、都の中心にそびえ立つ王城前の広場だ。


「カイル殿、まずは国王陛下への拝謁はいえつを。

 ――ああ、同行者の方はここまでです」


 調査団の老人が、俺をさえぎるように手をかざした。  

カイルが何か言いかけたが、俺はあいつの肩を軽く叩いた。


「気にするな。

 俺はそこらで美味うめえもんでも食って待ってる。

 お前はさっさと王様の話を聞いてこい」


「……うん。 分かった、すぐ戻るよ」


 親衛隊の騎士たちに囲まれ、カイルは城の奥へと消えていった。  

一人残された俺は、高くそびえる城を見上げて吐息を漏らす。  


……さて、どうしたもんか。


 とりあえず俺は、慣れない高級な空気から逃げるように賑わう大通りへと繰り出した。  

屋台から漂うスパイスの香り、道行く人々の活気。  

焼きたての肉の匂いに釣られ、俺は銅貨一枚で串焼きを買い求めた。

それを頬張りながら、さらに奥へと進んでいく。


 確かにこの街は豊かで美しい。  

だが、その輝きのすぐ隣には、日の光さえ届かない深い影が落ちていることに、俺はすぐに気づいた。


 ――ガシャンッ!


 華やかな大通りの一本裏側。  

食べ歩きをしていた俺の耳に、激しい物音が飛び込んできた。  

怒号、そして、何かが押し殺されたような悲鳴。


 考えるより先に、足が動いていた。


 薄暗い路地裏へ踏み込むと、そこには数人の覆面ふくめんを被った男たちがいた。  

そいつらが一人の少女を強引に麻袋へ押し込もうとしている。


「やめ…… 放してっ!」


 袋の隙間から見えたのは、栗色の柔らかな髪と震えるキツネの耳。  

獣人じゅうじんの娘だ。  

何よりそのおびえきった大きな瞳と目が合った瞬間、俺の心臓がこれまでにないほど強く脈動した。


 一目惚ひとめぼれ、なんて柄じゃない。  

だが、この子を今ここで助けなければ一生後悔する。  

俺の直感がそう叫んでいた。


「おい…… 白昼堂々、何してやがる」


 俺は手に持っていた串焼きを放り捨て拳を固めた。  

覆面の男たちが、忌々《いまいま》しそうに俺を振り返る。


「あァ? なんだてめぇ。

 田舎者が首を突っ込むんじゃねえよ」


「悪りぃな、性分しょうぶんなんだ。

 その子を放せ」


 俺は地を蹴った。  

先頭にいた男の顔面に、渾身こんしんの拳を叩き込む。  

マインの鉱山で鍛えたこの一撃は、並の男なら一発で沈むはずだ。


 ――だが。


「……ッ!?」


 手応えが、おかしい。  

殴り飛ばしたはずの男は、ふらつきながらもナイフを抜いてニヤリと笑った。  

そいつらは、ただの路地裏のゴロツキじゃなかった。


「はっ、威勢がいいのは口だけか? 野郎ども、殺せ」


 背後からも殺気が迫る。  

一人を殴れば二人に蹴られ、ナイフが俺の腕をかすめて血が飛ぶ。  

多勢に無勢。

何より、王都の悪党は戦い慣れていやがった。


「ぐ、あ……っ!」


 腹を蹴り抜かれ、俺は地面を転がった。  

必死に手を伸ばすが、少女は既に袋の中へ閉じ込められ担ぎ上げられている。


「たす…… けて……」


 袋の中から漏れた微かな声が、俺の耳に突き刺さる。  

追いかけようとするが、踏みつけられた背中が悲鳴を上げ、視界が赤く染まっていく。  

男たちの冷笑が遠ざかり、少女をさらった影が路地の闇へ消えていく。


 クソ…… クソがっ!


 カイルに偉そうなことを言っておきながら、俺は何一つできてねえ。  

勇者だの何だのと持てはやされるあいつと違って、俺は…… 目の前の女の子一人、助けられないのか。


 地面を叩き、自分の不甲斐ふがいなさに歯を食いしばる。  

 その時だった。


『――ふふっ。

 なかなか面白い性格をしているやつじゃな』


 意識が遠のく頭の中に、鈴の鳴るようなひどく妖艶ようえんな女の声が響いた。



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