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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第二章:異なる正義の旅路と亀裂

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029.クロス共和国、魔窟の洗礼

 砂塵舞うバランを抜け、北東へ。

地平線の先に現れたのは、これまでのどの国とも違う、空をするような巨塔が連なる異形の摩天楼だった。


 大陸中央、クロス共和国。

王も神も戴かず、ただ「契約」と「金」だけを法とする、大陸全土の利権が流れ込む巨大な経済国家。

ここには世界中の富が集まると同時に、どの国からも爪弾きにされた「毒」が煮詰められている。


「……ここが、クロスか」


 俺とノエルは、いくつもの巨大な歯車が噛み合うような轟音が響く正門を潜った。

街の空気は重く、石炭の煙と、欲望が腐ったような独特の匂いが混じり合っている。


「ガルシアさん…… みんな、目が笑っていません」


 俺の外套の端を掴むノエルが、怯えたように周囲を見渡す。

すれ違う商人、傭兵、政治家……。

彼らの瞳にあるのは、目の前の相手から、いかに効率よく「価値」を搾り取るかという冷徹な計算だけだ。


「ああ。これまでの国が『暴力』なら、ここは『計算』で人を殺す街だ。

 気を抜くなよ」


 俺たちはまず、潜伏できる場所を探した。

だが宿の価格は法外で、裏では必ず「所属ギルド」や「保証人」を要求される。

力でねじ伏せることは容易いが、この国で暴れれば即座に「経済的損失」として処理され、大陸中の賞金稼ぎが束になって襲ってくるだろう。


 俺が苛立ちを募らせていたその時、一人の男が歩み寄ってきた。


「おやおや、珍しい。

 その炎のような赤髪、そして隠しきれない極寒の魔力……。

 北と西を大混乱に陥れた『氷の魔人』様が、こんな掃き溜めに何の用かな?」


 俺は即座に右手に冷気を集束させた。

そこに立っていたのは、仕立てのいい紫の燕尾服を纏った銀髪の優男――レオン。


「おっと、物騒な魔力は抑えて欲しいな。

 私はしがない仲介人。

 このクロスの『裏の理法』を司る『七賢議会』の末席に座る者だよ」


 レオンは俺の殺気を柳に風と受け流し、優雅に一礼した。


「ガルシア・オルランド。

 君を捕らえて帝国に売れば一生遊んで暮らせるが……

 あいにく、私はもっと面白い『投資』に興味があってね。

 君がこの国で何を望むかだ。

 復讐か、安寧か、あるいは……

 この腐りきった大陸そのものを凍らせる『玉座』か」


『――くふふ。

 見よガルシア、この男は分かっておるのう。

 お主の中に眠る「魔王」の器をな!』


 脳内のロキが狂喜する中、俺は隣で不安げに俺を見つめるノエルの手をつないだ。


「……俺はただ、この子が笑っていられる静かな場所が欲しいだけだ」


「なら、手を貸そう。

 ただし、クロスでは安寧さえも『商品』だ。

 君にはその対価として、我々が抱える不快な問題を、その冷徹な力で片付けてもらいたい。

 最初の仕事は、地下の『廃棄区画』に巣食う不法占拠者の掃除だ」


 差し出された白手袋の手。

俺は、俺たちの居場所を買うために、その手を取った。


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