028.擦れ違う背中、塗り替えられる真実
どれほどの「ゴミ」を凍らせて砕いただろうか。
返り血さえ凍りついて塵となった俺の周囲には、夏のバランとは思えぬほどの極寒が漂っていた。
「……こんなもんだろ」
西側の国境付近にあるこの街で、主要な人身売買の拠点と、ノエルの記憶を汚していた界隈を徹底的に「掃除」し終えた頃、俺は深い吐息を漏らした。
路地裏には粉々に砕けた氷の破片が散らばり、太陽の熱に晒されて霧となって消えていく。
それはまるで、この街の悪意そのものが浄化されていくようでもあり、同時に、俺という異物が刻んだ深い爪痕のようでもあった。
俺は急いで宿へと引き返した。
部屋を覆っていた分厚い氷の繭を解くと、中ではノエルが不安げに、だが俺の気配を感じて安堵したような表情で立ち上がっていた。
「……ガルシアさん」
「待たせたな。
……行くぞ、ノエル。 この街に用はねえ。
今すぐ、大陸中央のクロス共和国へ向かう」
俺は彼女の手を強く引き、街が騒ぎに包まれる前にクロス共和国に向かった。
背後で、ようやく恐怖から解き放たれた民衆の悲鳴と、自警団の鐘の音が遠ざかっていく。
俺は一度も振り返らなかった。
◇◇◇
それから数日後。
バランの東側国境から、荒野を強行軍で突き進んできた一団の白銀の騎列が、ようやく街へと到着した。
先頭に立つのは、黄金の礼装に身を包んだ「勇者」カイルだった。
「勇者様、ご到着です。
……ですが、街の様子が尋常ではありません」
随行する騎士の言葉に、カイルは無機質な瞳を街に向けた。
数日前、国境で聞いた「赤髪の魔人の虐殺」という報告。
その言葉が誇張でないことを、街のあちこちに広がる破壊の痕跡が物語っていた。
「……あいつが、これを」
カイルは馬を降り、路地裏に残された微かな冷気の残滓に手を触れた。
聖剣が不浄な魔力を感知して低く唸りを上げる。
カイルの網膜には、かつて優しかった親友が、無慈悲に人々を凍らせていく光景が幻影となって浮かび上がった。
「酷い…… なんて惨いことを。
賊とはいえ、これでは虐殺です」
「やはり奴は、王の懸念通り『魔人』に堕ちたのだ……」
兵士たちの罵声がカイルの耳を打つ。
カイルは否定したかった。
ガルシアには、何か理由があったはずだと。
だが、目の前に広がる破壊の痕跡と、怯えきった民衆の姿は、あまりにも「悪」としての説得力に満ちていた。
「……カイル様、聞き込みの結果が出ました。
件の魔人は数日前、既にここを去っています。
……北東、大陸中央のクロス共和国方面へ向かったとの目撃証言が」
「……そうか」
カイルは聖剣の柄を強く握りしめた。
東の国境からこの街まで、あいつを追って必死に駆けてきた。
だが、あいつはさらに遠くへ、さらに深い闇へと進んでいる。
「……まずは、この街の負傷者の救護と復興を優先する。
混乱に乗じた他の盗賊もいるはずだ。
……それが終わり次第、クロス共和国へ追撃を開始する」
カイルは、ガルシアが救ったはずの(そして恐怖させた)民衆のために、聖なる癒やしの魔法を使い始めた。
ガルシアが壊し、カイルが直す。
その対照的な構図は、二人の間に横たわる深い断絶を象徴していた。
聖なる光に包まれながら、カイルは遠い中央の空を見つめる。
「ガルシア…… 君はどこまで、僕から遠くへ行くつもりなんだ」
その呟きは、誰に届くこともなく、バランの乾いた熱風に掻き消された。
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