027.バランの粛清、迫る足音
翌朝、バランの街に漂う腐臭は昨日までと同じだったが、俺の心境は劇的に変わっていた。
ノエルはまだ深く眠っている。
その寝顔は三年前の呪縛から少しだけ解放されたように見えたが、時折眉を寄せて微かに震える。
(……まだ、足りねえな)
昨日の屑どもを塵にしたくらいでは、この街に染み付いた汚濁は消えない。
俺は立ち上がり、眠るノエルの額にそっと触れた。
その温もりを確認してから、俺は魔力を練り上げる。
部屋の壁、窓、そして唯一の出入り口である扉。
それらすべてを、内側から透明で分厚い「絶対零度の氷壁」で完全に密閉した。 宿の主人はおろか、爆弾を持ち出したところで傷一つ付かない、俺の魔力が供給され続ける限り解けない檻だ。
「……ノエル。 誰も来させねえ。 安心しろ」
彼女を氷の繭の中に閉じ込め、俺は窓の外の熱風へと身を投げた。
表へ出ると、砂塵が頬を叩く。
俺は街の深部へと歩き出した。
目的はない。
ただ、ノエルを怯えさせる「可能性」を持つものすべてが、俺の敵だった。
「おい、そこの赤髪! 昨日ウチの若い衆を消したのはテメェか!」
路地を曲がった先で、十数人の男たちに囲まれた。
バランを根城にする盗賊ギルドの連中だろう。
だが、今の俺にとって、こいつらは言葉を交わす価値すらない、排除すべき「不快」でしかなかった。
「……消えろ」
俺が地を踏みしめた瞬間、石畳が真っ黒な氷の蔦に覆われ、男たちの足を絡め取った。
悲鳴が上がる前に、俺は右手を一振りする。
大気が凍りつき、氷の礫が弾丸となって男たちの肉を穿ち、即座にその傷口ごと全身を凍結させた。
数秒後、路地には静寂と、朝日を浴びて鈍く光る氷像だけが残る。
俺はそれを見向きもせず、次の「不快」を探して歩く。
その日、バランの裏社会は「死神」の再来に揺れた。
人身売買の拠点、略奪を繰り返す盗賊のアジト。
俺はそれらを一つずつ、ただ無感情に、徹底的に氷漬けにしていった。
『――くふふ。
愉快、実に愉快じゃ!
愛する女の復讐という大義名分を得て、お前の暴力は磨きがかかっておるのう、ガルシア!』
「うるせえよ、ロキ。 これはただの八つ当たりだ」
街のいたる所から悲鳴と怒号が響く。
だが、感謝の声などやはり聞こえない。
民衆は俺を、既存のならず者よりも質の悪い「災厄」として怯え、物陰から逃げ去っていく。
――その頃。
バランの国境門に、一団の馬列が到着していた。
先頭に立つのは、黄金の装飾が施された白銀の礼装を纏った男。
「……ここが、バランか」
カイルは、フードの下で無機質な瞳を街に向けた。
左手の甲の「太陽の痣」が、不吉な予兆を感じ取ったかのように激しく脈動し、黄金の光を漏らしている。
「勇者様、街の者たちの話では、赤髪の魔人が既に各所で虐殺を行っているとのことです。
早急に討伐の命を」
随行する兵士の声に、カイルはただ短く「分かった」とだけ答えた。
その声には、かつて親友を想って涙した熱は微塵も残っていない。
王城で「正義」という名の重圧を浴びせられ続けた彼の心は、完全に削り取られていた。
今の彼にとって、ガルシアは「守るべき親友」ではなく、取り除かなければならない「世界の癌」だった。
「行こう。
これ以上、あの男に罪を重ねさせるわけにはいかない」
カイルは聖剣を引き抜いた。
その刀身から放たれる眩い光は、バランの汚濁を照らす救済の光か、それとも親友の命を刈り取る断罪の光か。
バランの熱気が、急激に冷え込んでいく。
――英雄と勇者。
――再会の刻は、すぐそこまで迫っていた。
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