026.氷華の断罪、解ける心
「……お前ら、今、なんつった?」
俺の足元から広がる氷は、もはや白ですらなかった。
どす黒く、不気味な光を吸い込むような絶望の色だ。
「な、なんだぁ?
脅しのつもりかよ。
ここがどこだか分かってんのか、ここはバランだぜ、法も――」
男の言葉は、最後まで続かなかった。
俺が指を弾いた瞬間、男の足首から先が、音もなく粉々に砕け散った。
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁ!! 俺の、俺の足がぁぁ!!」
「騒ぐな。 まだ、一箇所目だ」
俺は一歩ずつ、這い蹲る男に歩み寄る。
残りの連中も逃げようとしたが、膝から下が石畳に縫い付けられたように凍りつき、身動き一つ取れない。
「頼む、助けてくれ! 冗談だ、ただの冗談だったんだ!」
「冗談?
……そうか。
なら、俺が今からおまえらにすることも冗談だ、許せな?」
俺の右手に、禍々しいまでの冷気が集束する。
帝国やフランで振るった力は、まだ「警告」の余地があった。
だが今は違う。
俺の心にあるのは、こいつらをこの世の塵にすること、ただそれだけだ。
「死ね」
解き放たれた黒い氷の嵐が、路地裏を飲み込んだ。
悲鳴さえも一瞬で凍りつき、静寂が戻った時、そこには歪な形の氷像が数体並んでいるだけだった。
路地裏を乾いた風が通り過ぎたとき、彼らは硝子細工のように粉々に砕け、熱風に混じって消えていった。
「……ノエル。 もういい、もう終わったぞ」
俺は泡を吹いて気を失いかけていたノエルを、抱きかかえる。
その体は真夏のバランにあって、氷のように冷え切っていた。
◇◇◇
街の喧騒から離れた、ボロボロな安宿。
部屋に運び込み、毛布を幾重にも重ねて暖めても、ノエルの震えは止まらなかった。
「……ガルシア、さん」
数時間が経ち、ようやくノエルが目を開けた。
その瞳には、かつての天真爛漫な輝きはなく、深い深い泥のような絶望が沈んでいた。
「……思い、出しちゃった。
あの暗い部屋、カビの匂い。
毎日、知らない男たちが……」
彼女の声は掠れ、断片的だった。
三年前、この街で彼女が受けた一ヶ月間の地獄。
それは、食料もまともに与えられず、ただ「商品」として、あるいは「慰みもの」として、心と体をボロボロに引き裂かれる時間だった。
「ごめんなさい、私……汚れてる。
ガルシアさんの隣に、いちゃいけないよね」
「……馬鹿なこと言うな」
俺は彼女を、壊れ物を扱うように抱きしめた。
この子は、俺のためにこれまで必死に笑ってくれていたんだ。
自分の心が悲鳴を上げているのを隠して、俺が「魔王」にならないように、ブレーキをかけてくれていた。
「汚れてるなんて二度と言うな。
……お前を傷つけた世界が間違ってるんだ。
俺が、その全部を叩き潰してやる」
「……ガルシアさん……」
ノエルが、初めて子供のように声を上げて泣いた。
これまで溜め込んできた恐怖、嫌悪、そして孤独。
それら全てを吐き出すように。
俺はただ、彼女が泣き止むまで、その温もりを感じ続けていた。
夜の帳が下りる頃、どちらからともなく。
俺たちは、互いの存在を確かめ合うように、重なり合った。
それは、これまで築いてきた「守る者」と「守られる者」の関係が、もっと深く、逃げ場のないほどに強固な「依存」へと変わる儀式だった。
窓の外では、相変わらずバランの汚濁に満ちた喧騒が響いている。
だが、この小さな部屋の中で、俺は初めて誓った。
この子の笑顔を奪うものが法だというなら、法を壊す。
それが世界だというなら、世界を塗り替える。
「……行こう、クロス共和国へ。
あそこはこの世の『富』『歪み』『正義』『悪』……ありとあらゆるものが集まる魔窟らしい。
きっと俺たちに相応しい場所だろうさ」
「はい……。
どこへでも、ガルシアさんと一緒に」
月明かりに照らされたノエルの肌は、淡い光を放っているように見えた。
俺たちは、もう二度と「普通」には戻れない。
俺は俺の望むままに、求めるままに、『ノエルだけの英雄』になってやる。
その結果がどんなものだとしても。
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