024.指名手配の魔人、南への航路
ナポタンの港を氷漬けにしてから、俺たちは逃げるように南の国境へと向かった。
だが、俺の「悪名」が広まる速度は、俺たちの足よりも遥かに速かった。
国境近く、砂埃が舞う街道沿いの寂れた酒場。
その壁には、既に新しい手配書が貼り出されていた。
描かれているのは、炎のような赤髪を振り乱し、冷気を纏った恐ろしい形相の男だ。
「……随分と人相が悪く書かれたもんだな」
俺は深く被ったフードの陰で毒を吐いた。
手配書には『氷の魔人・ガルシア』と記され、神聖帝国プロインとフラン王国の連名で、莫大な懸賞金が懸けられている。
シトラス王国の港町で役人を海に放り込み、北の帝国の騎士団を氷漬けにし、西の海洋国家の軍艦を機能不全に追い込んだ。
もはや「便利屋」なんて言葉で誤魔化せる段階は疾に過ぎている。
俺は名実ともに、大陸列強を敵に回した「世界の大罪人」になっていた。
「ガルシアさん…… 次は、どこへ行きますか?」
ノエルが、不安そうな瞳で俺を見上げてくる。
彼女の耳は今、俺が魔法で編んだ薄い氷の魔力膜で隠されているが、それでも周囲の視線に怯える癖は抜けていない。
「……南だ。
都市群国家バランへ向かう」
俺がその国名を口にした瞬間、ノエルの肩が目に見えて跳ねた。
バラン。
そこは、彼女が三年前、一ヶ月に及ぶ地獄を味わわされた場所だ。
「嫌なら、避けて通ってもいい。
……だが、大陸中央のクロス共和国へ行くには、あそこを通るのが一番手っ取り早いんだ」
「……いいえ。
大丈夫です、ガルシアさんと一緒なら」
彼女は震える手を膝の上で握りしめ、強がってみせた。
その健気さが、今の俺には何よりも辛かった。
俺がもっと上手く立ち回っていれば、こんな風に逃げ回る旅になんてならなかったはずなのに。
『――くふふ。
殊勝なことよな、ガルシア。
だがのう、あの国は帝国やフランのような法やまともな秩序がある場所とは違う。
金と暴力、そして「欲望の残滓」が渦巻く掃き溜めじゃ。
……お前の甘い正義が、どこまで通用するか見ものよのう』
ロキの不吉な予言を無視して、俺は南へと続く荒野を見つめた。
一方、その頃。
シトラス王国の王都ガイアには、フラン王国からの激しい抗議文が届いていた。 「貴国の勇者の友人が、我が国の軍艦を破壊した。 これは宣戦告発と受け取って相違ないか?」という、脅迫じみた最後通牒だ。
「……カイル。
済まないが、これはもう、情に流される段階ではない」
国王ルイン・シトラスの声は、以前よりも冷たく響いた。
カイルは玉座の前で膝をつき、拳を白くなるまで握りしめている。
「ガルシア・オルランドを、国際大罪人と認定する。
……勇者カイル、お前に命ずる。
南のバランへ向かえ。
そこで奴を捕縛……
抵抗するようならば、即時、抹殺せよ」
「……抹殺、ですか」
カイルの声には、もはや生気がなかった。
彼の左手の甲にある太陽の痣は、その運命を呪うように、鈍く暗い光を放っている。
「……承知いたしました。 ……陛下」
愛する親友を救いたいという願いは、国家という巨大な歯車に粉々に粉砕された。
立ち上がったカイルの顔に、かつてカリムの峠道で絶望し、泣きじゃくった「親友」の面影はもうなかった。
作り上げられた「勇者」の仮面を被ったカイルは、あの時と同じ聖剣を腰に下げ、無機質な足音を響かせて謁見の間を去った。
――南へ向かう、罪深き英雄。
――それを追う、心を殺した勇者。
二人の再会が刻一刻と近づく中、世界はより深い闇へと沈もうとしていた。
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