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勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第二章:異なる正義の旅路と亀裂

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022.黄金の檻、値踏みされる命

 「ナポタン」の夜は、昼間よりもさらに毒々しい輝きを放っていた。

至る所に吊るされた魔導ランプが石畳を黄金色に染め、着飾った富裕層と、その足元でその日暮らしの残飯を漁る貧民たちが、残酷なコントラストを描き出している。


「……ガルシアさん、あそこ」


 ノエルが俺の腕を強く引き、視線で路地の奥を指し示した。

そこには、港の倉庫街へと続く薄暗い広場があった。

鉄格子のはめられた頑丈な馬車が数台並び、その周囲を、昼間見たような下品な笑い声を上げる海兵と、見るからに強欲そうな商人が取り囲んでいる。


「……競売か」


 馬車の中から引きずり出されたのは、鎖で繋がれた子供たちだった。

それも、ただの子供じゃない。

ノエルのような獣人の子や、珍しい髪の色をした異国の子供たちだ。


「さあさあ、次は神聖帝国から流れてきた極上のエルフ混じりだ!

 観賞用にも、労働用にも、あるいは夜の慰みにも……

 金次第で自由自在ですよ、旦那方!」


 商人の声に、集まった貴族たちが品定めするような、湿った視線を投げかける。

隣に立つノエルの体が、目に見えて震え始めた。

彼女の手が俺の腕に食い込み、荒い呼吸が聞こえてくる。


(……そうだ。 ノエルも、こうやって売られていたんだな)


 彼女がかつてバランで受けた仕打ち、そしてシトラスでベクターに攫われた記憶。

この光景は、彼女にとって地獄の再演でしかない。


『――くふふ。

 どうした、また拳が疼くか?

 だが気をつけろよ、ガルシア。

 この国において、人身売買は立派な「経済活動」の一部。

 それを邪魔することは、この国の法そのものに喧嘩を売ることと同義じゃぞ』


 ロキの嘲笑が耳を打つ。

なぜか珍しく俺を煽るのではなく、冷静にさせようとしてくる。


「……調子狂うじゃねぇか」


――分かっている。

ここで暴れれば、俺たちはまた「大罪人」として追われることになる。

せっかく美味い魚を食って、少しは落ち着けると思った矢先だというのに。


「……助け、なきゃ」


 ノエルの絞り出すような声。

その瞳には、かつて自分が助けられた時の期待と、今まさに売られようとしている子供たちへの同情が入り混じっていた。


「ノエル。

 ……俺が動けば、また旅が厳しくなるぞ。

 ……いいのか?」


 俺の問いに、ノエルは涙を溜めながらも、強く頷いた。


「……あんな目、誰にもしてほしくないです。

 ……お魚、食べられなくなってもいい。

 ……助けてあげて、ガルシアさん!」


 彼女のその言葉が、俺の最後の理性を吹き飛ばした。


「……。

 分かったよ」


 俺は深く被っていたフードを、乱暴に脱ぎ捨てた。

石畳を歩く足音が、カツンと冷たく響く。


「おい、商人」


 俺の呼びかけに、商人と海兵たちが怪訝そうに振り返る。


「なんだ貴様、冷やかしか?

 ここは金を持たぬ者の来る場所ではないぞ」


「ああ、金ならねえよ。

 ……代わりに、これを受け取れ」


 俺は右手に極寒の冷気を集束させた。

ナポタンの熱帯びた夜気が、一瞬にして氷点下へと叩き落とされる。


「――そいつらを、今すぐ開放しろ。

 さもなきゃ、この港ごと凍らせて沈めてやる」


 ガルシア・オルランド。

俺の正義は、いつだって独善的で、短慮で、最悪だ。

だが、ノエルが泣いているのを無視できるほど、俺は「大人」にはなれなかった。


「な、なんだこの冷気は!?

 こ、氷の魔人……!?

 まさか、北で噂になっている――」


 商人の悲鳴が夜の港に響き渡る。

黄金の街ナポタンで、英雄とも魔王ともつかぬ俺の「暴走」が、再び幕を開けた。


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