019.白銀の蹂躙
扉の向こうで、また何かが壊れる音がした。
男たちの下卑た笑い声と、「不浄な耳を見せろ」という罵声。
そして、それらを全てかき消すような、ノエルの震える悲鳴。
――俺の視界は、瞬時に白く染まった。
頭が冷えていくのではない。
俺の血管を流れる魔力が、周囲の全てを凍てつかせるための『氷』へと変質していく。
「……どけ」
低く呟いた俺の言葉に、宿の主人が悲鳴を上げて腰を抜かした。
扉の前に立っていた二人の審問官が、嘲笑を浮かべて俺を睨む。
「なんだ貴様、この不浄な女の飼い主か?
ちょうどいい、貴様も同罪だ。
パリスの名の下に――」
そこから先の言葉を、俺は許さなかった。
拳を握る動作さえ不要だった。
俺の意志に応じるように、床から噴出した巨大な氷の牙が、審問官の男二人を天井まで突き上げた。
悲鳴を上げる暇さえ与えず、彼らの体は白銀の檻の中に固定される。
俺は凍りついて砕けた扉を通り、部屋の中へ入った。
そこには、数人の男がいた。
一人がノエルの腕を掴み、もう一人が彼女のフードを無理やり剥ぎ取っている。
露わになった栗色の耳。
ノエルは涙を流し、恐怖に顔を歪ませて床に這いつくばっていた。
「……汚ねぇ手で、触ってんじゃねえよ」
俺の声は、自分でも驚くほど静かだった。
だが、部屋の壁という壁がミシミシと凍りつき、窓ガラスが内側から弾け飛ぶ。
「な、なんだ貴様……
魔法使いか!?
衛兵を、衛兵を呼べ!」
一人の男が腰の剣を抜こうとしたが、その腕は肘から先が瞬時に凍り付き、硝子のように砕け散った。
絶叫が響く。
俺はそれを無視して歩み寄り、ノエルを掴んでいた男の顔面を、魔力を込めた拳で殴りつけた。
手応えは、ほぼなかった。
一瞬で全身が凍り付いた男は、殴られた衝撃で音もなく塵と化した。
残った連中にも、逃げる間はなかった。
足元から這い上がった氷が、彼らの自由を奪い、肺の中まで凍らせていく。
ほんの数秒。
部屋を支配していた「暴力」は、俺という「圧倒的な理不尽」によって上書きされた。
「……ノエル。
済まねえ、遅くなった」
俺は床で震える彼女を、そっと抱きしめた。
氷のように冷え切った俺の体とは対照的に、ノエルの体は熱く、激しく鼓動していた。
彼女は俺の胸に顔を埋め、言葉にならない声を上げて泣きじゃくる。
ふと、外の喧騒が耳に入った。
壁に開いた大きな穴から外を見下ろすと、そこにはいつの間にか、大勢の民衆が集まっていた。
「魔物だ……! 人の姿をした魔物が出たぞ!」
「神聖な帝都で、なんて不浄な……!」
「悪鬼だ! 氷の悪鬼が現れた!」
感謝の声なんて、一つもなかった。
俺が助けたのは、ただの非力な少女だ。
それなのに、彼らの目に映るのは、騎士を無惨に凍らせた「化け物」でしかなかった。
怯える子供。
石を投げてくる老婆。
パリス教の偶像を掲げ、俺たちを呪う言葉を吐き続ける市民。
その光景を見て、俺は心の底から虚しさを感じた。
(ああ……そうか。 ここにも俺たちの居場所はなかったんだな)
ノエルを抱きしめる腕に力を込める。
かつて勇者の陰で笑っていた頃の俺は、もうどこにもいない。
俺を見つめる彼らの冷ややかな視線が、俺を困惑させる。
「英雄」「魔王」……。
どちらの名でも呼ばれる俺は、一体何者なんだ?
そもそも「英雄」と「魔王」って、なんなんだ?
『――くふふ。素晴らしい。
これぞ絶景よ、ガルシア。
お前を拒む世界を、全て白銀の墓標に変えてやれ』
「……黙れロキ。
行くぞ、ノエル。
こんな場所、こっちから願い下げだ」
俺は背後に氷の嵐を巻き起こし、追手を阻む壁を作った。
帝都を包む鐘の音が、俺たちを「大罪人」として告発するように、激しく鳴り響いていた。
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