014.交錯せぬ依頼、歪む正義
数日後。
王都ガイア、王城の謁見の間。
カイルは無機質な静寂の中に立っていた。
数日前に遠征から帰還したばかりの体には、まだ芯に重い疲労が残っている。
だが、そんなことは関係なしに、新たな「勇者の務め」が舞い込んできた。
「勇者カイルよ。
……北東の港町カリムにて、不穏な動きがある」
玉座に座る国王ルイン・シトラスが、冷徹な声で告げた。
その傍らには、カリムから命からがら逃げ帰ってきたという役人が、大袈裟に震えながら控えている。
「賊が現れました、勇者様!
奴は氷の化け物です!
王の命を侮辱し、港を破壊し、善良な商船を粉々に砕きました!
このままではカリムの治安は崩壊いたします!」
「……氷の、賊?」
カイルの胸が、ドクンと嫌な脈動を打った。
脳裏に過るのは、マインの鉱山で共に育った親友の顔。
そして、ベクター侯爵邸で見た、あの凄惨なまでの氷の彫像。
「まさか……
いや、そんなはずはない。
あいつは、カリムに……」
カイルは必死に否定しようとした。
一ヶ月前、ガルシアは何も言わずに消えたはずだ。
どこへ行くかも告げず、自分を見捨てたのだと、そう教えられてきた。
だが、国王の言葉は無慈悲に続く。
「この賊は『便利屋』を自称し、民衆を扇動して王国の秩序を公然と無視している。
カイルよ、お前の聖剣で、この不逞な輩を断罪せよ」
「……陛下、お待ちください。
その者は本当に、ただの賊なのですか?
何か、事情があったのでは……」
「事情だと?」
国王の目が険しさを増す。
「カイルよ、お前は勇者だ。
民を守るのが務めであろう。
現にカリムの役人が恐怖し、経済が滞っている。
秩序を乱す力は、それ自体が悪なのだ。
お前の甘さが、さらなる犠牲を生むとは思わんのか?」
……まただ。
あの村で子供を見捨てた時と同じ論理。
『秩序』という名の天秤に乗せられ、カイルの個人的な感情は踏み潰されていく。
カイルは俯き、唇を血が滲むほどに噛んだ。
「……承知いたしました。 カリムへ向かいます」
その返答を聞いた役人の口角が勝ち誇ったように歪んだのを、カイルは見落とさなかった。
一方、その頃。
港町カリムの夕暮れ。
ガルシアは、壊した船の残骸を片付ける漁師たちの手伝いを終え、桟橋に腰を下ろしていた。
「……なぁ、ノエル。
俺のやったこと、間違ってたのかな」
不意に漏れた呟き。
船を壊せば、商人は大損害を被る。
役人はメンツを潰される。
それは王国全体から見れば、単なる暴徒の行いでしかない。
「……私は、助かりました」
隣に座ったノエルが、静かに答える。
「ガルシアさんがいなかったら、あのおじいさんたちは今頃、寒い夜道をどこまでも歩かされていたはずです。
……それは、絶対に間違っていません」
彼女の言葉に、ガルシアは少しだけ救われた気がした。
だが、胸のざわつきは収まらない。
ロキが脳内でクスクスと笑い続けている。
『――美しいのう、自己満足の正義は。
じゃがのう、ガルシア。
お前が守ったその小さな光が、お前の親友にとっての最大の障害になる……
その瞬間の顔が、今から楽しみでならんわい』
「……黙れと言ってるだろ」
ガルシアは拳を握りしめた。
北東の空が、不気味なまでに赤く染まっている。
運命という名の巨大な歯車が、音を立てて噛み合おうとしていた。
何も知らない二人が、最悪の形で再会するその時まで、あと数日。
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