013.凍てつく港、英雄の鉄槌
「勇者様は我らの光なのです」
あの日、王都へと連れ戻される時に聞いた兵士たちの濁った敬意がまだ耳の奥にこびりついている。
王都ガイアへと帰還したカイルを待っていたのは、煌びやかな晩餐会と、救えなかった命を覆い隠すための分厚い報告書だった。
「……もう、いいんだ」
カイルは夜のテラスで独り呟き、煌びやかな愛剣の柄を強く握りしめた。
耳を澄ませば、あの村で聞いた子供の泣き声が、風に乗って聞こえてくる気がした。
救いたいと願うほどに、勇者という立場がカイルの足を縛る。
民衆が捧げる祈りや信頼が、彼にとっては喉を締め上げる真綿のように感じられていた 。
一方、大陸の東端に位置する港町カリムでは、潮風が凍りつこうとしていた 。
「お、おい!
何をしている、その手を離せ!」
悲鳴が上がったのは、老漁師たちが身を寄せ合って暮らす、海岸沿いの粗末な小屋の前だった。
贅を尽くした衣装を纏った町の役人と、武装した商人の私兵たちが、住人たちを強引に外へと引きずり出している 。
「この土地は今日から王都直轄の保養地となる!
上納金を払えぬ寄生虫どもに、海を見る資格などないのだ!」
役人が振り上げた杖が、震える老人の肩を打とうとしたその時――。
バキィッ!
乾いた音と共に、役人の持つ高級な木製の杖が、一瞬にして砕け散った。
そこに立っていたのは、不機嫌そうに目を細めた赤髪の男
――ガルシアだった 。
「……おい。
その汚い杖を、二度と人に向けるんじゃねえ!」
ガルシアの周囲の気温が、目に見えて急降下していく。
石畳には白い霜が降り、私兵たちが構えた槍の穂先が凍りつき始めた。
「ひ、ひぃっ!
貴様、前回の便利屋か!
こ、これは国王陛下の認可を受けた正式な立ち退き命令だぞ!」
「王の命令?
そんなもん、俺が知るかよ」
ガルシアは一歩踏み出し、役人の胸ぐらを掴み上げた。
彼の脳内では、悪神ロキが狂喜乱舞し、耳元で邪悪なメロディを奏でている 。
『――そうじゃ、ガルシアよ!
法も秩序も、強者が弱者を食らうための道具に過ぎぬ。
お前という絶対的な理不尽で、この醜い構図を氷の彫像に変えてしまえ!』
ガルシアの瞳に、禍々しい白と青の光が宿る 。
右拳に込めた魔力が、爆発的な氷の波動となって解き放たれた。
「――ぶっ壊れろ」
刹那、港を揺るがす轟音が響き渡った。
役人の背後に停泊していた、悪徳商人の巨大な商船。
不当な利益の象徴であったその船が、一瞬にして船底からマストの先まで巨大な氷柱に貫かれ、真っ二つに叩き割られた 。
砕け散った氷の飛沫が、宝石のように夕日に輝く。
漁師たちは驚愕に目を見開き、私兵たちは武器を捨てて逃げ惑った。
「……ガルシアさん」
背後から、衣擦れの音と共にノエルが駆け寄ってきた 。
彼女は、破壊の痕跡を見つめ、それからガルシアの震える右手を、そっと自分の小さな両手で包み込んだ 。
「もう、いいですよ。
……みんな、助かりましたから」
ノエルの温もりが、ロキに蝕まれかけていたガルシアの意識を現世へと引き戻す。
ガルシアは深く息を吐き、凍りついた役人を地面に投げ捨てた 。
「……役人共、王都の王様に伝えろ。
カリムの海は、ここに住む連中のもんだ。
文句があるなら、直接俺のところへ来いってな」
その言葉は、数日後、最悪の形で王都へと届くことになる。
正式な討伐依頼として――
そして、その任務を授けられるのは、仮面のような笑顔を張り付かせた親友、勇者カイルであった 。
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