表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の陰に英雄あり ~手柄をすべて譲った俺は、悪神の加護を手に理不尽な世界を叩き潰す~  作者: 日向ぼっこ
第二章:異なる正義の旅路と亀裂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/23

012.勇者の資質、英雄の毒

 王都ガイアから数日の距離にある、名もなき村。

かつては麦の穂が揺れる穏やかな地だったはずのそこは、今や鼻を突く血の臭いと、魔物の咆哮に包まれていた。


「……勇者様! 

 あちらです、まだ奥の民家に子供が!」


 兵士の叫び声に、カイルは弾かれたように顔を上げた。

手にした煌びやか《きらびやか》な剣は、すでに幾体もの魔物の脂で汚れ、黄金の輝きを鈍らせている。

助けを呼ぶ声に導かれるように駆けだそうとしたカイル。

しかし、その肩を鋼鉄の籠手が強く掴む。


「待て、勇者カイル。 

 これ以上の深追いは無用だ。 

 撤退命令が出ている」


 冷徹な声の主は、王国軍の指揮官だった。


「……! 

 な、何を言っているんですか! 

 まだあそこには、助けを待っている人がいるんですよ!!」


 カイルの声が裏返る。

だが、指揮官の瞳に揺らぎはない。


「本隊の目的はあくまで国境警備の強化だ。 

 魔物暴走の兆候を確認した今、兵力を無駄に消耗させるわけにはいかない。 

 数人の平民のために、勇者の身に万が一のことがあれば、それこそ国家の損失だ」


「数人の、平民……?」


 カイルの耳に、民家の奥から聞こえる幼い泣き声が届いた。


「助けて、お母さん」


その細い、今にも途切れそうな声が。


「だめだ…… 

 行かせてください! 

 僕はそのために、勇者になったんだ!」


 カイルが振り払おうとした瞬間、背後の兵士たちが彼を取り囲んだ。

カイルは怒りのまま睨みつけたが、彼らの眼差しを見て動けなくなってしまった。

その目は敬意に満ちていた。

敬意……

信頼……

尊敬……

本来は好意的な感情であるはずのそれらは、カイルを雁字搦がんじがらめにする鎖だった。


「勇者様は我らの光なのです。 どうか、ご自愛を……」

「あなたの命は、人類すべての宝なのです」


 カイルは絶句した。

自分のことを称える王国兵たちが、苦しむ子供を助けることを邪魔し、戦場から引き剥がしていく。

遠ざかる民家。

――やがて泣き声は、魔物の咆哮にかき消された。


 馬車に揺られ、王都へと戻る道中。

カイルは真っ白になった手の平を見つめていた。

『勇者』。

それは、誰を救うための名前なんだ。

心の中に、冷たいおりがまた一つ、深く沈んでいった。


 一方、その頃。

北東の港町カリムでは、ガルシアが額に青筋を立てていた。


「……おい。 もう一度言ってみろ」


 カリムの桟橋。

潮風に吹かれながら、ガルシアの目の前には、泣き崩れる一人の老漁師と、贅を尽くした衣服に身を包んだ男

――町の役人が立っていた。


「ひ、ひぃ! 

 ですから、今月からの上納金は、従来の三倍…… 

 王都の復興支援金として納めていただかねば、漁の権利を剥奪すると……!」


「復興支援だと? 

 王都がいつ、そんな被害を受けたんだよ。 

 あそこは今、勇者の誕生に浮かれて毎日が祭りだろうが!!」


 ガルシアの手の中で、役人が持っていた帳簿がミシミシと音を立てる。

老漁師が震える声で訴える。


「ガルシアさん……。 

 これじゃ、孫に食わせるパンも買えねえ。 

 みんな、役人とあの大商人の言いなりなんだ……」


 ガルシアは役人の襟首を掴み上げ、その顔を極限まで近づけた。


『――くふふ。 良いぞ、ガルシア。 

その不快感、その怒り。 

それこそが我の愛した魂の輝きよ。 

さあ、この愚物の首を氷で飾り立ててやれ』


 脳内のロキが歓喜に震える。


「……ガルシアさん」


 背後で、ノエルがそっとガルシアの袖を引いた。

彼女の瞳には、怯えではなく、彼を案じるような色が宿っている。

ガルシアは深く息を吐き、役人を地面に投げ捨てた。


「……消えろ。 

 次にそのツラを俺の前に見せたら、その時は海が凍る前に、お前の血を凍らせてやる」


 役人は腰を抜かしながら逃げ出していった。

ガルシアは沈みゆく夕日を見つめ、拳を握りしめる。

王都で着飾るカイル。

ここで不当に虐げられる漁師。

同じ空の下で、何かが決定的に歪んでいる。


「勇者が世界を救うなら……

 俺は…… 

 ……この目の前の不愉快をぶち殺すだけだ」


 それが、後に世界を震撼させる「魔王」の、その最初の一歩であることに、彼はまだ気づいていなかった。


「面白かった!」

「続きが気になる!」

「今後どうなるの!?」


と思ったら、

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いします!!


面白い!なら☆5つ、つまらない!!なら☆1つ、

正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です。


ブックマークも頂けると本当にうれしいですし、はげみになります!

よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ