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マイベストユートピア  作者: 米ノ香
学園の七不思議編
7/23

第7話:地下室からの祈り

数分前、アヤカはミヤビが寮から出ていくのを見た。アヤカはミヤビにバレないようについていく。ミヤビが物置に入るのを見届けてその後自分も入る。そこにはアヤカはいない。代わりにロッカーのドアが開けっぱなしになっていて中に空間があるのが見えたのだ。


「ミヤビ……危ないことに巻き込まれてるんだ」


下を見る。暗い。アヤカは怖かったが自分の頬を叩く。


「友だちが危ない目にあってるのに見過ごせないよね!」


そう言ってロッカーの奈落に落ちたのだ。


 「あぁ、手を出さなければ見逃してあげたのに…」


ライナはそういうとアヤカに近づいた。時は一瞬だった。アヤカは首を掴まれ持ち上げられていた。アヤカもミヤビもライナの手に捕らえられた。


「ふふ…どっちから死にたい?まぁ、そっちの子は食べないけどね…」


ライナはアヤカを値踏みするように見る。


「この子はまずそう。頭が悪そうね。出来が悪い。だから殺して…校庭にでも飾ろうかしら」

次の瞬間


「…取り消して」


ミヤビの声が地下の冷気に震えた。


「…何?」


ライナはミヤビを訝しげに眺める。


「アヤカは、勉強ができない。バカだし。それは認める」


「ミヤビ…流石に私でも傷つくって…」


アヤカは持ち上げられたまま情けない声を出す。


「でも…」


ミヤビは続ける。

「そのバカさは…いつも孤独な少女を救ってくれる」


「ミヤビ…」


「だから…アヤカは出来が悪い子なんかじゃない…!最高の友だち!」


ミヤビの目は真っ直ぐライナを向いていた。


「何それ…変なの」

ライナは退屈そうに吐き捨て、ミヤビの首に爪を立てようとした。

その瞬間箒がライナをかすめる。


「また、誰…?」

暗闇から赤と水色の瞳が浮かび上がる。エルだ。


「エル…!」

アヤカとミヤビが叫ぶ。


「まぁた変な子が来た。こんなに来ても私はミヤビしか食べないよ?」

ライナは嘲笑する。

その瞬間ライナの腕が飛ぶ。


「…!」

アヤカとミヤビが落ちて自由になる。


「学園に潜むウルフ…。あなたはすごいと思う。でも…。」


エルは剣を軽く振って血を払う。


「あなたは少し欲張りすぎだし、まわりくどすぎる」


エルは言う。真っ直ぐな瞳を向けて。


「何を言っているの?」

ライナは笑った。


「あなたはこの学園を巻き込みすぎた。おまけに……偏食のせいでこんなに優秀な少女を引き寄せた」


エルはミヤビを見た。

「ミヤビのおかげで辿り着けた。七不思議のトリックがわかったからね。七不思議は順番になってる。順番に辿ることで地下の存在が仄めかされるんだ」


エルは語り出す。

「まず私は理科室にいた時点で地下室の存在を疑った。地下にある機械が動くとその磁波で時計は遅れることがあるんだ。理科室が呪われているんじゃない。私の時計も遅れてたから。理科室以外はデジタル時計だし、このご時世アナログはほとんど見られないし、誰も気づかない。トリックを見破れる人以外はね」


エルは続ける。

「誰もいない教室の電気の点灯、そして足音。これは地下室に誰かが入ったことを示す。地下への入り口が開いたことでその影響で電気は点灯。足音は地下室からの足音。傾く肖像画は地下の振動で傾いた。五つ目はロッカーの奥に立てかけられている掃除用具が地下室への扉が開いた衝動で下に落ちた。そして…」

エルは大きく息を吸う。


「あなたは五つ目まで知った生徒に近づいて唆し鍵を渡す…。これは六つ目の七不思議。地下への入り口への鍵は使われていない学園長室でしょ?」


ライナは笑う。

「すごいねぇ。その通り。」


「そしてあなたは七つ目。地下室にたどり着いた生徒を食べているんだ。汚いね。人の欲望を利用するなんて。」


ライナは笑う。そしてエルは続けた。

「あなたは成績優秀の生徒を誘い込むために七不思議を流した。七不思議を解かせることで頭のいい人間だけがこの地下に辿り着けるように仕向けた…まぁ鍵の仕組みだけはアナログで直接渡してるみたいだけど。まわりくどいね。ほんと」


「すごぉい。君いいねぇ。食べちゃいたいぐらい…いや…」

ライナは舌なめずりをする。


「ここでみーんな食べちゃおう♡」

ライナが動く。その瞬間エルが剣をふるった。


「二人とも、戻って!」


「え、でもエルが…」


迷うアヤカの手をミヤビがひく。

「行こう。今私たちにできることは何もない」

二人は出口に向かって走り出す。

ライナの攻撃は素早い。ただの雑魚ウルフではなかった。


「強い。あなた今まで何人の生徒を食べてきたの…?」


ライナは言う。

「そんなの数えてない。たらふく食べられるからね。だってこの学校優秀な生徒がたくさんいるけど…みんな愚か。あらゆる知識が手に入るとか奇想天外なことをちらつかせるだけで自ら食べられにくるんですもの。私がもっと優秀になれる方法を教えるとでも言えばすぐに来る。だってあの子たちは優秀さのためにどんなものも犠牲にするんだもの」

ライナはニヤリと笑う。


「そう……聞かなきゃよかった」

エルは感覚を研ぎ澄ませる。ライナの攻撃をかわしながら核を探る。見えた。胸だ。


「も一つ質問。あなたウルフとして生きてて楽しい?」


ライナは初めて笑みを歪ませる。

「楽しい…?そんなこと…考えたこともない…でも」


ライナは続ける。

「人を食べる瞬間は本当に楽しい…」

再び笑みを浮かべる。


「そう…」

次の瞬間


エルの攻撃がライナを刺す。

「え……?」

ライナは自分に突き刺さる剣を見た。核のギリギリ横。


「これ…わざと?」

ライナは聞く。


「……。」

エルは何も答えない。ただ手は震えていた。殺そうと思えば殺せる。でも体が動かない。エルは迷っていた。


「優しいね。でも…」

ライナはエルに鋭い爪を向けた。


「その優しさは自分を殺すよ?」

殺意がエルに飛びかかる。次の瞬間

バサっ。


ライナに木の棒が当たる。

「いたっ……」


よろめくライナの胸をエルが貫く。核の感覚。

「あ……わ、たしやられた?」

ライナはそのまま体が崩壊し血も骨も残さず跡形もなく消え去った。焼け焦げる匂いがエルの鼻をツンと刺す。

エルは剣についた血を払う。そしてライナを倒す時に一瞬躊躇した自分を振り返る。エルは今までたくさんのウルフを相手にしてきた。ライナのように人を残酷に殺し笑いながら食べるウルフ、生きるために仕方なく食べるウルフ。泣きながら人を襲うウルフ。みんな斬ってきた。でもエルはどんなウルフを相手にしても倒すのに少し躊躇いがあるのだ。理由はわからない。ただ完全なウルフでも人間でもないエルにとってこの選択はあまりにも残酷すぎたのだ。


「エルー!大丈夫?怪我してないー?!」

アヤカがエルを抱きしめた。


「アヤカ、逃げたんじゃ…」


「友だち置いて逃げるわけないでしょ?」


「ほんと、無茶ばっかり」

ミヤビが遅れてやってきた。少し息が荒い。走ってきたのだろう。


「ミヤビまで…助けようとしてくれたの?」


「私は何にもしてない。アヤカが勝手にしただけ。」


「違うよー。ミヤビも手伝ってくれたじゃん。ここから投げたら当たりやすいし安全だって」


「ちが、私はそんなんじゃ…あんた至近距離で投げようとしてて危なっかしいのよ。おまけに重い方が攻撃できるって、どっから持ってきたのかもわからないダンベル投げようとするし…」


「二人ともありがとう」

エルは微笑んだ。今までにないほど柔らかくて優しい笑み。三人は出口を探して奥に進む。すると大量の人骨と被害者のものと思われる衣服や遺品が捨てられていた。


「これって……今まであいつに食べられた子たちのものだよね……」

アヤカが言う。ミヤビは無言で遺品の山をかき分ける。エルとアヤカはその様子をじっと眺める。ミヤビは突然動きを止めた。エルが少し覗くとミヤビの手に握られていたのはロケットペンダントだった。ミヤビはそれを胸に当ててしばらく目を瞑る。被害者への弔いだ。エルとアヤカも目を瞑り手を合わせ祈った。この世界での死者への弔い方。昔エルはアキヤマに教わった。

地下から出た一行はこの地下での惨事を知る由もなくいつものようにキラキラと無慈悲に昇る太陽を見る。もうすっかり朝だ。エルは懐中時計を取り出す。針が刺すのは0時13分。地下の磁波の影響で止まっていた時計が今やっと動き出したのだ。本当の時間は5時37分。その時、アヤカは眠気に耐えられず地面に倒れ込んだ。



 



 

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