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第5話:夜の七不思議

寮内はエルにとって初めての光景ばかりだった。

エントランスにはシャンデリアが吊るされ、その先の部屋が談話室。たくさんの生徒が談笑したり、本を読んだり、あとは、なぜか筋トレ。エルは荷物ボックスに預けられたキャリーケースを取り部屋に向かう。

 寮は女子部屋と男子部屋に入る階段がわけられていた。


「えっと、私の部屋は、、18番。」


 部屋の中はベッドと机と椅子。最低限の家具は置いてあった。キャリーケースを置き、鞄を机の上に置く。

 コンコン。扉が叩かれる。開けるとそこにはアヤカがいた。


「やっほーエル。遊びにきたよ」


「いらっしゃいアヤカ」


 エルはアヤカを招く。アヤカはひろげられていないキャリーケースを一目見て問う。

「今着いたの?」


「うん。あの後色々探検してたんだ」

 エルは調査のことは言わない。言えばこの子を巻き込む。


「えー。言ってくれたら案内したのにぃ」


アヤカは軽くしかめっ面をする。その様子はまるで拗ねた犬だ。


「そうだ。もうすぐ晩御飯の時間だよね?よかったら一緒に食べない?」

その言葉を聞いた途端アヤカは目をキラキラさせる。

 エルとアヤカは食堂に向かう。夕食は昼とは違いみんな同じ料理。看板には〜本日の献立〜ハンバーグ、温野菜、コーンスープ、パンと書かれている。

 席につき夕食をとる。エルはアヤカに聞いた。


「そういえば、なんでこの学校、学園長室が3つもあるの?学園長は1人しかいないのに」


「あー、なんか前の学園長が作ったらしいよ。変わり者の人で理由もわからない。30年ぐらい学園長してたんだって」


「30年って長いね。今の学園長も相当おじいちゃんって感じだけど」


「今の学園長は就任して半年ぐらいなんだよ。今の学園長の方が私は好きだなぁ。いっぱいお話ししてくれるし…前の人は全然生徒と関わらなかった人なんだよ。いつも何かに怯えてる様子だったし、それに…」


 アヤカは声をひそめて言う。

「ここだけの話、前の学園長は失踪したって聞いたの」


「失踪?」

エルは聞く。


「うん。ある日突然学園長が変わったの。定年だったらもっと区切りいいとこで変わるだろうし…」


 確かに今は12月。変わったのは6月。変わるなら4月が一般的だ。


「七不思議が出廻ったのは学園長がいなくなる手前だったの。だから七不思議は学園長の怨霊だったりして…」


「まさかね」

エルは笑う。


 夕食後、エルはアヤカと別れた。大量の課題を片付けるらしい。エルは部屋に戻り準備をする。何をするか?決まってる。夜の学園に忍び込む準備だ。エルは目立たない黒のコートをキャリーケースから出し人間の使う香水をふる。ウルフの匂いを消すために。そして寝静まる夜を待つ。





寮から学園は少し離れていた。夜の学園は昼の賑やかさとは打って変わって静かで不気味だった。エルが学園に近づくと突然鼻を刺激する匂いがした。昼は気づかなかった獣の匂い。−否。それよりもずっと生々しいウルフの匂いがする。


「おじさんの言ってた通り。この学園、ウルフがいる」


 エルは裏口から入ろうとした。鍵は事前に借りていたからだ。しかし裏口は開いていた。妙に思いつつ、そのまま警備室に入る。その瞬間、


「ギャーーーーッ」


 そこには膨よかな体系の中年ぐらいの男警備員が一人、怯えて部屋の隅っこにいた。


「やだやだやだやだ、僕はまだ死にたくなーい!リストラにあってやっと職場を見つけたと思ったらこんな曰く付き職場だったなんてーー!確かに私は恋人もいなければ友達もいない…だからといってこの仕打ちはあんまりだぁぁぁ」


 エルは見たくないものを見た気分だった。

放課後、エルは学園長に夜の学園に入ってもいいかの許可を取りに行っていた。学園長は警備員の付き添いがあればと許可をくれた。が、肝心の警備員がこんなにビビりだとかえって無許可で入った方が早く仕事が済んだかもしれない。


「あの、調査に入ることになったエル・ピーダです」


 声を聞いた瞬間安心したのか彼は顔を上げる。


「いやぁ、取り乱してごめんね。昔からビビりで今もこうなんだ…恥ずかしいよね…僕はキン・ワタナベ。学園長から話は聞いてるよ。嬢ちゃん、探偵で調査しに来てるんだよね?」


 彼は冷や汗をハンカチで拭う。

「あの…一応聞きますけど今日の警備担当って一人だけですか?」


「そうだよ。なんなら働いているのも僕だけだね」


 これはまずい。とエルは思った。もし戦闘になったらワタナベは確実に足手纏いになるからだ。


「七不思議の噂とやらで他の人はみんな辞めちゃってね…」

ワタナベは帽子をかぶる。


「大丈夫。これでも警備員なんだ。なんでも聞いてくれ」


次の瞬間音がした。ペットボトルが膨張した音だ。なんてことはない。


「ひいぃぃぃぃぃっ!」


 ワタナベは恐怖でうずくまる。


 (…いくら人手が足りてないからってこんなの学校の警備に雇うなんて学園長も人が良すぎる…)


 怯えるワタナベを引っ張りエルは校舎内を歩く。

ワタナベは恐怖で足をすくませながら歩くからとても遅い。エルはまだ不法侵入の方が楽だったと後悔する。

さっきの足音は誰のものか…慎重に歩く。いつウルフが襲いかかってきてもいいように。ひとまずエルは2階に行くため階段に向かう。2年D組の教室の前を通り過ぎようとすると突然教室の電気がついた。

ーー消えた。

一拍置いてまたつく。

そして不規則な点滅が始まった。

この時点でワタナベは今にも気絶しそうなのにその後追い打ちをかけるように足音が聞こえる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!やっぱりゆうれいは……」


そこまでいうとワタナベは気絶した。

エルは気絶したワタナベを起こそうとした。体をゆする、腹をつつく、そしてついでに腹を叩いてみる。

返事はない。ただのおっさんのようだ。

仕方なくエルはワタナベを警備室まで運び(というか引きずって)安全を確保した後2階に向かう。

 2階に着くとウルフの突き刺すような匂いが少し薄まる。そして3階、4階に行くにつれ匂いが薄まる。


「上に行くごとに匂いが薄まる、ということは……」


 エルはその後、一階にある音楽室に向かった。目についたのは噂の傾く肖像画。だがまだ傾いていない。

 しばらく見続ける。数分後肖像画はガタッと傾いた。その瞬間エルは警備室に走り出す。


「一つ目、電気の点滅。二つ目、足音。三つ目、肖像画の傾き。四つ目…」


 扉を開くとワタナベはまだ気絶していた。


「起きて。ワタナベさん」


 返事がない。こうなったら奥の手だ。エルはワタナベの耳元で叫ぶ。


「わーっ!幽霊だぁぁぁぁ」


 ワタナベは飛び起きた。


「何?!何?!」


驚くワタナべをよそ目にエルは聞く。


「ワタナベさん。聞きたいことがあるの」


「何だい嬢ちゃん…びっくりするじゃないか。僕に聞きたいこと?」


「ワタナベさんはずっと警備してるんだよね?」


「うん。そうだよ」


「警備する時、七不思議が起きる順番は?」


「確か電気が点滅して、その後に足跡だね」


「前に七不思議が起きたのは?」


「あれは3週間前だったかな…よく覚えてるよ。だってあれは僕の初勤務だったからね」


 エルは確信した。そして口を開く。

「最後にもう一つ質問いい?」


 ワタナベはまだポカンとしてる。


「ワタナベさん、今日裏口のドア閉めた?」


「閉めたよ。これは確かだ」


「……なら急がなきゃ」


「え…?急ぐって…」

 エルは真剣な顔でワタナベに言う。


「早く行かないと、今夜犠牲者が出る」


エルが寮から出かける前、寮から出る影があった。そしてその影を追うようにまた一つ影があったことをこの時エルは知る由もなかった。

 

 

 

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