第37話:選んだもの、残るもの
「もうすぐ出口じゃ。」
ゲングが言う。
「……あいつら、確か列車の時の。……ネオリュカだっけ。」
エルが誰もいない後ろを振り返る。
「チッ……奴ら、どうやら俺らに矛先を向けたらしいな。」
アキヤマがお尻をさすりながら言う。
エルは列車内の出来事を思い出す。運転席での出来事。
「……ふふ。安心して?今日は壊さない。」
甘くねっとりとした声がエルの脳内に焼きついていた。
(あの時……私……動けなかった……)
エルの指先が微かに震える。
もし、あの声の主が再び現れたら?
さらに強い敵が現れたら?
そして何より……
――仲間たちが狙われたら?――
アキラ、ミヤビ、アヤカ、ザザン、アキヤマ。彼らはエルほど強くない。それが最も残酷な現実なのだ。
(……それでも)
それが、頭から離れなかった。
「……おい、エル。」
アキヤマの声。
「大丈夫か?さっきからずっと黙ってるが……いや、お前はそもそも元からあんまり喋らねぇか……」
そう言いながらアキヤマはエルの頭にポンと手を置く。
「エル、どうせお前のことだ。また面倒くせぇこと考えてんだろ?」
アキヤマはエルの頭から手を離す。
「俺らはお前ほど強くはない。だがな……」
一拍。
「人間は案外しぶとい生き物だ。逃げる、戦う、隠れる……全部選んで動いてる。」
「自分で選んだもんはどんなもんでも死に物狂いで貫くんだよ。」
「……俺はエルの家族だ。どんな目に合ってもそれはお前のせいじゃねぇ。これは俺が選んだ選択だからな。あいつらだってそう言うだろうさ。」
相変わらずアキヤマはお尻をさすっている。
いまいちかっこよく決まらない。でもそんなアキヤマがエルの上司であり育ての親だ。
しばらくして空気が変わる。外の匂い。辺りはもう真っ暗だった。
――キキィー――
トロッコが草むらで停止した。ゲングはやり残した仕事があると言ってそそくさと工房に戻って行った。エルとアキヤマがどうやって帰ろうか考えていると
「おーい!エルー!アキヤマさーん!無事かぁー?」
聞き馴染みのある声。騒がしいパシリ――アキラの声だ。
「あんまり帰りが遅いから迎えに来たぞ。」
アキラはそう言いながら駆け寄ってくる。
「……アキラ。……みんなは?」
「みんなもいるぞ。パー子さんが車出してくれたんだ。」
アキラが指差す方向に車が止まっていた。窓からは派手な格好の元軍人の情に熱い女魂を宿したオネエ様、パルコ・デアトが手を振っている。
「みんなぁ♡迎えに来たわよ〜」
アキヤマは若干ギョッとした顔をするが背に腹は変えられないことを理解したのか一人トロッコの中で萎縮している。
「……なぁエル。アキヤマさんどうしたんだ?」
アキラが渋々聞く。
「歳のせいだよ、歳のせい。」
「雑かよ?!」
「フッ……僕の仲間がそう簡単にはやられるわけがないがな!(本当は誰よりも心配してた)」
「二人とも!無事でよかったぁ!」
アヤカが駆け寄ってくる。
「……位置情報の動きでなんとなく無事だと思ってたけど。」
ミヤビはいつもと同じ冷静な顔だが、どこか安堵した表情だった。
「おいお前ら。心配するのはいいが早く俺をここから出してくれねぇか?」
アキヤマは顔に合わず滑稽な姿だった。
「あらあら、肝心のボスがこんなんじゃだらしないわね。それよりみんな、お腹空いてなぁい?」
「空いた。極限に。」
パー子の問いにエルは即答した。それに続いて他の面々も続く。
「じゃあ決まりね♡今夜は私の奢りよ!なんでも好きなもの言いなさい!」
パー子の奢りという言葉を聞いて一同は歓喜の声をあげる。
「オムライス。」
「肉!」
「お寿司!回るとこの!」
「私はどこでもいいわ。デザートがあるところならね。」
「やはりここはファミリーレストランだ。」
「はいはい。そうね、みんなの食べたいものが叶うのは、、あのお店ね!ポーリ街にちょうどビュッフェのお店ができたのよぉ。」
エルたちは意気揚々と(一人をのぞいて)パー子の派手なキッチンカーに乗り込む。
エルの耳にはまだあの時の甘くねっとりとした声が残っていた。




