第34話:代わりにならないもの
そこは薄暗い祭壇だった。黒装束の集団が祭壇に奉られている黒いドレスを着た女神が描かれた絵画を崇めている。奥の部屋から容姿の整った青年が現れた。
「……迷える狼たちよ。我らが崇めし神が生贄を求めていらっしゃる……しかし、生贄は来ない……どうしてかわかるかい?」
青年は言った。周囲の黒装束たちはざわめく。それを青年は片手で制する。確かに微笑んでいるのに目だけは笑っていない。
「どうやら我らの信仰を阻む不届きものたちがいるようだ……これは神への冒涜……そう思わないか?」
青年が言うと黒装束の集団は一斉に叫び出す。
「……さぁ、あの者たちを神に捧げよう……!」
ウルフ関連の事件を主に解決するアキヤマ探偵事務所。普段はザザンの中二病発言やアキラの大声、ミヤビのツッコミ、アヤカの笑い声で溢れているのに今日はやけに静か。理由は明確だ。
「……なぁ、ミヤビ。エルのやつ、ずっと隅っこで三角座りしながら折れた剣見つめてんだけど?」
アキラが気まずそうに言う。
「……今はそっとしておきなさい。今行ったら、あんたエルに噛まれるわよ?」
ミヤビが言うとアキラはギョッとする。
ザザンはエルから離れた位置でソファを盾にしながらエルの様子を伺っていた。
「ねぇ、エルがあんなに機嫌悪そうなのってやっぱり……?」
アヤカが言い終わらないうちに口をミヤビが塞ぐ。
「しーっ!今エルの側で剣のワードは出さない!」
その時、エルがミヤビの言った「剣」という単語に反応する。
「……剣?」
「あーっ、違う。エル、ごめんなさい。」
するとエルは再び俯く。
そんな気まずい空間の中、アキヤマが仕事から帰ってくる。
「……おい、エル。いつまでしんみりしてんだ。第一、剣なんてまた買いなおしゃいいだろ?」
アキヤマの言葉にエルはギロっと睨む。
「……おじさん。これ、特別な剣。昔からずっとあるやつ……買いなおしとか考えられない……」
さらに探偵事務所内の空気が重苦しくなる。
アキヤマは呆れたように言った。
「だぁぁっ、わかったよ、わかったからその陰気臭いのやめろ。俺の知り合いに腕のいい武器デザイナーがいるんだ。そいつに頼めばその剣も直してくれるだろ。」
その瞬間、エルは先ほどまでのオーラを全て引っ込め出かける準備をする。
「……何してるの、ほら行こう?」
「「立ち直り早?!」」
アキラたちがツッコミをいれているとミヤビがアキヤマに聞く。
「……ねぇ、アキヤマさん。エルの剣、本当に直せるの?……調べた感じあの剣、相当珍しい素材使ってる。ネオトピアシティ内では到底手に入らない素材よ?」
「……まぁ、大丈夫だろ。あの親父、腕だけはいいんだよ。そう、腕だけは、な?」
アキヤマのその意味深な言葉にミヤビは首を傾げながらエルを見る。その表情はたい焼きを頬張る時のエルより一段と輝いていた。
(……あの剣、とっても大事なのね……)
ミヤビは思い出す。エルとまだ会って間もない頃、エルが自分の武器を手入れする姿を。その姿はいつものドライで食い意地のはる姿とは似ても似つかない優しい表情をしたエルだった。




