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マイベストユートピア  作者: 米ノ香
エリュシオン号編
33/37

第32話:神は選ばない

 扉の向こう。運転席へと続く連結部分がある。エルは先に進む。連結部分から外の景色がみえた。戦いの途中は意識していなかった景色。荒廃した建物が立ち並ぶ。


「これが旧都市……ッ!」


エルの頭が痛む。誰かに呼ばれる声。旧都市がまだ存在した頃の景色が頭の中に流れる。


(何コレ……知らない……知らないはずなのに……)


誰かに呼ばれる声。


その時、ミヤビから通信が入る。


「エル、あと3分でウルフの群生地に到着しちゃう!」


エルは我に返った。


「……了解、ミヤビ。」


エルは運転席に入る。そこには他の黒装束とは違う仮面を被った人物が一人。


「ほう。コバエが一匹迷い込んだか……」


黒装束の男は言った。


「……一応聞くけど、この列車止めてもらえる?」


エルは折れた剣を黒装束の男に向けながら言った。


「フッ……嫌だと言ったら?」


「そしたら……あんたの仲間をこの列車から突き落とす。」


その瞬間。黒装束の男は笑う。


「フッハハハッ……。何を言い出すかと思えば……そんな脅しに俺が乗ると思うか?第一……」


一拍。


「俺たちは神のためなら命を差し出す覚悟なのだ。神が全てをお決めになる……神が選んだ選択こそ、理想郷(ユートピア)なのだ。この列車の乗客どもも神に選ばれし者たち……実に光栄なことだ。」


その言葉を聞いた瞬間、エルは言った。


「……ふざけるな」


一拍。


「神が全てを決める?神に選ばれし者?……反吐が出る。誰かの選択のために誰かが犠牲になるだなんておかしい。」


その時、エルは黒装束の男の首に手をかけていた。


「お前たちは化け物だ。ウルフよりよっぽど。」


黒装束の男は笑った。


「ハハッ……お前に俺が殺せるのか?……お前は迷ってる顔をしている……お前も俺たちと一緒だ。迷いなど捨ててしまえ……神が決めてくださる!」


その瞬間、エルに明確な殺意が。


――バキバキバキ――


気づくとエルは男の首を折っていた。本能だった。


「あっ……」


エルはすぐに手を離した。男の息は、もうない。


「……エル。大丈夫。大丈夫だから。」


ミヤビからの通信。


「……ごめん。ミヤビ……わたし、私、人を……」


「大丈夫。あれは人じゃない。調べたけど、あいつからウルフと人間の生体反応があった。……どのみちあいつは死んでいたわ……」


エルの手が震える。


「……エル。落ち込んでいる暇はないわ。あと1分でウルフの群生地に着く。ブレーキを。」


エルは震える手でブレーキを握る。


「それを力いっぱ……」


ミヤビの通信が途切れる。その瞬間。


「あは……みぃつけた♡」


ねっとりとした甘い声。


(……気配がなかった。一体何者?……くっ、体が動かない……)


体が動くことを拒否していた。振り向くことさえできない。エルの頬に冷や汗が滴る。


「ほらぁ、早く止めないとみんな死んじゃうよぉ?」


エルの耳元に甘い吐息がかかる。


(やばい……体が…………早く……ブレーキ……)


エルの手は動かない。頭ではわかっているのに体が動かない。声の正体さえわからない恐怖。エルの頬に冷たい感触。――鋭くドス黒い剣だ。刃先が強く、壊れない力で押し当てられる。エルの頬から赤い線がはしる。


(ダメだ……早くブレーキ、引かなくちゃ!)


エルは恐怖を押し殺し、ブレーキを引く。


――キキィィィ――


エルは体感で体が倒れそうになるのを耐える。必死だった。倒れれば殺される。そう感じたから。


「あははっ……!その顔、その顔だよぉ!……いいねぇ……壊れない顔してる。」


声はまるでエルを遊ぶようだった。


「……ふふ。安心して?今日は壊さない。」


そして耳元で囁き声。


「またね……エルちゃん♡」


気配が消えた。にもかかわらずエルの体はしばらく動かなかった。


(……殺されると思った。ティエラより何倍も強い気配がした……)


エルの耳に甘くねっとりとした声が残る。

エルはそのまま意識を失い倒れ込んだ。




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