第29話:絶望の線路
エリュシオン号2両目。
「……ふぅ。とりあえずあらかた片付いたな。威力業務妨害罪、及び殺人未遂、公務執行妨害、その他諸々で現行犯逮捕だ。」
ジンは黒装束集団を一斉に縄で縛り上げる。
「さて、お前ら。ネオリュカの連中だろ。何が目的だ。吐いたからといって罪が軽くなることはないが、今にもテメェらに拷問しようとしてる部下を止める事ぐらいはしてやる」
ジルは黒装束の一人にどこから持ってきたかのか鞭を振り下ろそうとしている。もはやどっちが悪かわからない構図だ。
「へへへ……何しようがもう遅い……。この列車は既に祭壇に向かっているのだからなぁ……って痛い痛い痛い!やめろ!紙でシュッとするな!痛いだろ!!」
ジルは手に持っていた鞭を置いて、画用紙で黒装束の一人の手を切っていた。ジンは無視することに決めたのか続けて言う。
「祭壇だと?まさか、この列車の乗客を全員ウルフの胃袋にでも入れるつもりか?」
「ハッ、ウルフ?違うな……我らの崇める神はもはやウルフを超えた存在だ……貴様らはこれから神の飢えを肥やす生贄となるのだ……」
ジンは窓のカーテンをめくる。
果てしなく広がる灰色の荒野。遠くに、黒く尖った塔の影が見えた。
「……クソ。おいジル。運転席行くぞ。この列車を止める」
ジルは手を止めた。
「了解です。じゃあジン課長お先にどうぞ。」
ジンは扉を開ける。目の前には体長2メートルほどの異形ウルフが。
「ぐるるる、がぁ……」
ジンは黙って扉を閉める。
「……おいジル。」
「なんですか?」
「……遺書書く準備しろ」
一方、エリュシオン号7両目。エルたちは迫り来る黒装束の集団を薙ぎ倒していた。
「オラオラオラオラぁ!邪魔だぁ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁ!そんな物騒なもん持って追っかけてくるなぁぁぁ!」
「えーいっ!当たれっ!」
「……エル。峰打ちにしときなさい。殺人現場にするのだけはごめんよ。」
「……ケーキの恨み。ここで晴らす……」
「俺の睡眠を邪魔した罪は重いぜ?変な仮面集団さんよ。」
黒装束の集団が次々と倒れていく。乗客たちは息を呑んでこの戦いを見ていた。
「……ミヤビ。あと何人ぐらい来そう?」
エルが聞く。ミヤビは端末を操作した。
「……もうこちら側に向かってくる生体反応はないわね。ただ……」
ミヤビが険しい顔をする。
「……一両目。運転席の手前ね……そこから強大なウルフと人間の混血の生体反応確認。異形ウルフね。そしてその近くに動く人間の生体反応が二つ。奴らの仲間かしら……」
「……まぁどっちにしろあれだ。お前ら、気合い入れろ」
アキヤマが拳銃に弾をこめながら言った。
一行が四両目に着いた時。列車内にアナウンスが響く。その声は震えていた。
「……エ、エリュシオン号にご乗車の皆様にお知らせします……ただ今この列車は……目的地を変更して、旧都市へと、向かっております……」
「旧都市?旧都市って、ネオトピアシティの前の街だよね?」
アヤカはブーメランに手をかけながら言う。
「……地図上から消された街……ね。83年前に滅びた世界の中心地だった……」
ミヤビがノートパソコンの画面上を見つめる。
「一体、旧都市に俺たちを連れて行って何する気だ?」
「……多分さっきの奴が言ってたけど、儀式のためだろうね。おそらく私たちを生贄にでもするんだと思うよ」
エルは不快そうな顔をする。ミヤビが端末を操作。
「……あったわ。政府のサーバーにあいつらの服装と一致する集団が。彼らはネオリュカ。最近爆発的に信者を増やしているカルト宗教団……。人を食う怪物がウルフなら、彼らは"狂人"ね。」
「……そ、そんな団体、すぐに逮捕されるんじゃないのか?保安局が黙ってないんじゃ……」
ザザンが怯えながら言う。
「彼らはこの世界の理を逆手に取ってるわ。ネオトピアシティの人間は私たちのような存在とは違ってウルフの存在を御伽話のように捉えている。……だからこそ、彼らの信仰は周囲の人間からしたらバカバカしいものなのね。」
ミヤビに続いてエルが口を開く。
「ネオトピアシティで行方不明になった人の中にも、奴らに消された人たちも含まれているだろうね……」
エリュシオン号1両目。ジンとジルはボロボロになりながら戦っていた。
「カハッ……ハァハァ……こんな怪物一体どこから積みやがったんだ……」
異形ウルフが腕を振り下ろす。床の底に穴が空く。
「ジルさん……こいつは、異形です。おそらくあの例の薬"λ"でしょうね……」
ジルは剣で攻撃を受け流しながら言う。口調は余裕だが、体の動きが徐々に鈍くなる。
「ガルルルルル……た、すけ、、グルァァァァ」
「……おい。今こいつ助けてって言おうとしたか?」
ジンは座席の後ろに隠れて様子を伺う。
「ハァハァ……人間味が見え隠れする、って、噂は、本当だったんですね……」
ジルが滑り込むように座席の後ろに隠れる。
「ぐ、る、じ……い……」
異形ウルフは苦しむ。
「ったく……とんだ化け物だぜ。こんだけ車両ボロボロにして次は人間味を出すなんざな……ウルフなんかよりもよっぽどタチが悪い。」
「ジンさん……あそこに血溜まりがあります。あいつは人を喰ってる。同情の余地なんかありません」
窓ガラスが割れる。列車が鈍い音をたてる。
「このままじゃ、俺らはお陀仏だ。応援を呼ぶにもここがどこなのかすらわからないしな……なんとかして列車を止められりゃいいんだが……」
ジンは運転席へと続く扉を見つめる。捨て身で行けば確実に死ぬ通路。。床には爪痕が走り、鉄の匂いが鼻を刺していた。ジンとジルは絶望にふける。
絶望を積んだエリュシオン号。目的地は死への一本道だった。




