第21話:幸運注意
標高を増すごとに、吹雪はもはや視界を奪う白い壁と化していた。マイナス30度の極寒の中、一行はボロボロになりながら山道を登る。
「ひ、ヒィィ……! 魔力が……俺の魔力が凍りついて、心臓の鼓動がストップ・モーションだ……!」
とザザンは歯をガチガチさせながら震える。
「……へ、へへっ。これくらい、サウナの後の水風呂みたいなもんだぜ……」
アキラは強がっているものの今にも倒れそうだ。
「もう……ダメ……。メガネが凍って何も見えない……。これ、右と左どっちが崖なの!? 誰か私のGPSになって……!」
ミヤビはいつもの冷静キャラをすっかり捨てている。
「むーりー!! 私、南国育ちじゃないけど無理! エル、お願い……! あなたの体温だけが私のライフラインなの……!」
アヤカはコアラのようにエルにしがみついた。
「お、重い……」
「……おい、お前らしゃべるな。体温が逃げる。……あとミヤビ、俺の髪を掴むな。氷柱になってて折れるぞ」
アキヤマの無精髭とボサボサの髪は、雪と吐息で真っ白に凍りつき、まるで氷の彫刻のようになっている。
そんな一行の背後から、吹雪を割って聞き覚えのある声が響いた。
「なっさけねーなぁ! ネオトピアの探偵様が、たかがこれくらいの雪で全滅かよ!」
振り返ると、そこには防寒具を何重にも着込み、鼻の頭を真っ赤にしたルルーが立っていた。
「ル、ルルー!? なんで着いてきたの……危ないって言ったでしょ!」
「おいガキ、ここは遊び場じゃねえんだ。今すぐ村に……」
周りが口々に反対する中、アキヤマだけは無言でルルーをじっと見つめていた。その横で、アヤカをぶら下げたままのエルも、静かにルルーの瞳を覗き込む。
ルルーの瞳には、恐怖も、寒さへの愚痴もない。あるのは、ただ一つ。コウを奪い、村を地獄に変えたティエラへの、そして自分自身の弱さへの、燃えるような怒りと決意だけだ。
「……ルルー。もう一度だけ聞くぞ。あそこには熊も幽霊もいねえ。いるのは、お前を食おうとした本物のバケモノだ。……本当についてくる気か?」
「……アタイが一番、この山の道を知ってる。……それに、アタイが行かないと、コウが……あいつが、暗い穴の中でずっと寂しい思いをするんだ。……アタイは、もう逃げない」
アキヤマとエルは、一瞬だけ視線を交わしました。エルの瞳がわずかに和らぎ、アキヤマは深い溜息をつくと、凍りついた髪をガリガリと掻く。
「……いいよ。君が一番、目が死んでない」
「……チッ。しゃあねぇな。ミヤビ、こいつが崖から落ちないように見張ってろ。……ルルー、道案内を頼む。ただし、俺の後ろから一歩でも出たら、即座に気絶させてでも村に送り返すからな」
「……っ! ああ、わかったよ! 任せな!」
ルルーの顔に、力強い笑みが戻る。
探偵事務所のメンバーに、小さな、しかし誰よりも熱い勇気を持った案内人が加わった。
村からだいぶ離れた頃、雪は一向に止む気配がなかった。
「……ねぇエルぅ、まだぁ?なんか眠くなってきた……」
アヤカが今にも眠ってしまいそうだ。
「アヤカ寝ちゃダメ!死ぬよ!」
ミヤビが眼鏡を凍らせながら必死にアヤカの体を揺さぶる。
「うぅ…さみっ……これあいつの拠点に辿り着く前に死なねぇよな?」
アキラは巨体を縮ませながら言う。アキヤマは隣で放心状態だ。冬眠寸前といったところだろう。
「……おかしいな。ここら辺からウルフの匂いがするんだけど……」
エルはマフラーから鼻を出し匂いを辿る。
「……ふっ。感じる……体が震えているぞ(※寒さで震えてるだけ)……これは……そこだな!」
ザザンが大きな岩を指差す。
「……ただの雪じゃ……」
ミヤビがそう言いかけるとエルは迷わず岩を切った。
すると岩の下に何やら穴がある。
「……ビンゴ。ザザン、よくやったね」
「え、あ、フッ……僕は最初からわかってたさ!(マジかよぉぉぉぉ?!)」
「なんだぁ?穴見つけたのか?早く入るぞ。寒くて髪の毛がもはや動かなくなった」
アキヤマはそういうと真っ先に穴に入った。
「えっ、ちょっ!」
ミヤビが言いかけると地面が崩れて全員もれなく下に落下した。果たして穴の先には何があるのか。




