第20話:雪女と家族
エルたちは早速調査を開始した。
「……子どもたちが消える日は決まって猛吹雪の日なんだよ。あたしらも子どもたちには吹雪が来たら家に帰るんだよって伝えてるんだけどね……。」
村のおばさんはそう言った。エルたちは老人に聞いてみる。
「これは雪女の祟りじゃ……この村ができた頃、白い顔のおなごが産まれたのじゃが……そやつが産まれてからというもの、猛吹雪が何度も村を襲ったのじゃ。おまけにそやつは生肉を好んでおっての。村人は皆、呪いの子だの雪女の末裔だのと迫害しおったのじゃ……きっとその祟りに違いない……恐ろしや」
老人はそう言うとそそくさと去っていった。
「ねぇおじさん。これって……」
「あぁ、間違いないな。ウルフだ。」
アキヤマは山の方を見る。
「こりゃあ、大仕事になりそうだな」
村の外れ、アキヤマから「つまみ出された」ルルーは、そこで一人、黙々とパチンコの練習をしていた。
「……っ、こんの……! アタイだって、これくらい……!」
かじかむ指で小石を放つが、寒さで震え、石は標的の空き缶を大きく逸れて雪の中に消える。ルルーは悔しさから、雪を思い切り蹴りつけました。
「……構えが、バラバラ」
背後からの声に、ルルーは肩を跳ねさせた。そこには、いつの間にかエルが立っていた。
「……何だよ、あんた。アタイを見張りに来たのか?」
ルルーは強がって唇を噛む。エルは答えず、エルの瞳はただ静かにルルーを見つめていた。
「……どうして、そこまでして首を突っ込むの?死ぬかもしれないのに」
ルルーは一瞬黙り、それから消え入るような声で答えた。
「……いなくなった『コウ』はさ……アタイの弟みたいな奴だったんだ。親のいないアタイを、あいつの家族が本当の姉妹みたいに受け入れてくれた。……あいつを奪ったのが熊だろうがバケモノだろうが、アタイだけが逃げるなんて、そんなの……『家族』じゃないだろ」
ルルーの言葉は、エルの胸の奥にある、まだ整理のつかない「家族」の残像を鋭く突き刺した。
エルはゆっくりと歩み寄る。
ルルーは殴られるのかと身を構えたが、エルの冷たいはずの手は、ルルーのボサボサの頭を、力任せに、しかしどこか慈しむように無造作に撫でた。
「な、……何すんだよ! やめろよ、子供扱いすんな!」
ルルーは顔を真っ赤にしてエルの手を振り払おうとするが、エルは構わず、ルルーの髪をぐしゃぐしゃにする。
「……あんたは、強い。心が。……でも、身体が追いついてない」
「うるさいな……!」
ルルーはやめろと言いながらも、その手から伝わる不思議な安心感に、突き放す力を失っていた。ネオトピアの人工的な温かさとは違う、自分と同じ「孤独」を知っている者の体温。ルルーの目には、少しだけ涙が浮いていた。
エルはポケットから、携帯している飴をルルーに渡した。
「これ舐めて元気出す。甘いものは元気が出るっていつもミヤビが言ってた。舐め終わる頃には全部終わらせるから。」
そう言い残し、エルは吹雪の中へと消えていった。
ルルーは一人残された外でエルの手の感触が残る頭をそっと押さえ、少しだけ、嬉しそうに鼻をすする。
深夜。猛吹雪の音が窓を叩く中、ルルーは一人、納屋の片隅で眠れぬ夜を過ごしていた。
ふと、部屋の温度が急激に下がったのを感じ、彼女は飛び起きる。
目の前にいたのは、窓も開けずに室内に立ち、月の光を反射して白く輝く少女、ティエラだった。
「……あ、……あんたが、……バケモノ……っ!」
ルルーは震える手でパチンコを構える。
「コウを……アタイの弟分をどうした!? どこに隠したんだよ!」
ティエラは首を傾げ、少し困ったように指を顎に当てた。
「コウ……? ……ああ、あの子のことかな。……少し、硬かったけど、……甘かったよ」
ティエラは懐から、カチャリと音を立てていくつかの「ガラクタ」を床にぶちまける。それは、今まで行方不明になった子どもたちの持ち物。
その中に、ルルーが昔コウに「お守り」としてあげた、あの綺麗な石が転がっていた。
「……あ、……あぁ……っ!!」
ルルーの瞳から光が消え、代わりに激しい怒りと絶望が溢れ出す。
「よくも……よくもコウを!!」
ルルーは武器も持たず、獣のような叫びを上げてティエラに飛びかかる。しかし、ティエラは表情一つ変えず、ルルーの細い首を片手で掴み、宙に吊り上げた。
「あなたも、……同じ匂いがする。……一緒に来れば、お腹の中で……会えるよ」
ティエラがルルーを連れ去ろうとしたその時、納屋の壁を突き破り、黒い閃光が走る。エルだ。
「……その子を、放せ」
エルのオッドアイの瞳が怒りで輝いている。エルは剣を抜き、ティエラに斬りかかる。が、ティエラはルルーを盾にしながら、大地を隆起させてそれを防ぐ。
本格的な激突が始まるかと思ったその時、吹雪の向こうから、低く、しかし不気味な「声」が響いた。
『……おねえちゃん……。……お腹、……空いた……よ……』
その声はどこか人のものとは違う、歪んだ響きを帯びていた。ティエラの顔に初めて焦りのような色が浮かぶ。
「……ごめんね、……弟が、呼んでるの。……」
ティエラはルルーをその場に放り捨て、背後の壁を土の波へと変えて、闇の中へ溶けるように消えていった。
駆けつけたメンバーたちが目にしたのは、床に転がった「形見の石」を抱きしめ、声もなく震え続けるルルーの姿だった。
アヤカは何も言わず、雪のように冷たくなったルルーを強く抱きしめる。
「……ルルー。……泣いていいわよ。……私たちが、ここにいるから」
アヤカの腕の中で、ルルーはやっと、絞り出すような慟哭を上げた。その背後で、エルはティエラが消えた北の山を、拳から血が滲むほど強く握りしめ、見つめていた。
(――同じだ。守りたいもののために壊れていく……。)




