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第17話:空から降ってきた青年

「じゃあとりあえずあれだ。細かいことは明日考えて今日はいっぱい食え」

アキヤマがジョッキ片手に言う。事件の後、全員のお腹が一斉に鳴ったためアキヤマの奢りで回転寿司屋に来ていた。


「お寿司なんて何年ぶりだろ……」

ザザンがうどんを目の前にして呟く。隣ではアヤカが大量のハンバーグ寿司を頬張っていた。ミヤビはミヤビでデザートばかり頼んでいた。

 

アキヤマは日本酒片手にえんがわを食べながら言う。

「おいお前ら、魚を食え魚を。ここは寿司屋だぞ?エルを見ろエルを。もう50皿も食べてやがる」


エルは片っ端から寿司を頼んで炙りチーズサーモンに落ち着いている。

「うま……やっぱり炙りチーズサーモンが一番。」


 こうして束の間の晩餐は幕を閉じた。ちなみにお会計の時アキヤマがぼそっと「明日からはもやし生活だな……」と呟いたのをエルは聞き逃さなかった。


 次の日。エルは貯めていたヘソクリでたい焼きを購入した。

 

「ふふん。今日からもやし生活になるんだったらたい焼きで補わなくちゃね。」


エルが上機嫌で紙袋に入った温かいたい焼きを持って帰宅していると突然少し離れた所から


「……や、やめて。来ないで……」


女の人の怯える声がする。エルは鼻に加えて耳も良い。剣とたい焼きを抱えてエルは声のする方へ走り出す。


 暗い路地。壁に追い詰められていた女性。その前に立つ男。――いや、ヒトの形をした何か。

黒いコート。歪んだ笑顔。口元から覗くのはヒトのものではない牙。


「へへっ……今日は随分とツイてる日だなぁ?」


男は女性の肩に手を置き、まるで食事前の確認をするように顔を近づける。


「やめて……!誰か……!」


「――離れろ。」

低く、鋭い声。


男が振り返るとそこにはたい焼きと剣を持った少女が立っていた。水色の瞳と赤い瞳を持つ少女。


「……ほう?ガキが一人で?勇気あるなぁ」


「その人から手を離して。そしてできるならここから去って欲しい。……たい焼き冷めちゃうから。」


エルはたい焼きの袋の匂いを嗅いで今にも食べたい気持ちを我慢する。


「ハハッ!俺に指図か?いいねぇ、面白い……」


男が指を鳴らすと、一瞬何が起きたのかわからなかった。エルは近くのゴミ捨て場に放り出されていたのだ。持っていた袋からたい焼きがこぼれる。


「……!」


エルは動けなかった。一体自分に何が起きたのか。そして何より目の前に立ちエルを嘲笑う男から漂う気配――こいつは他のウルフや異業ウルフとは違う。――


「若いねぇ……俺に勝てると思ったか?」


男は女の人のことなど忘れたかのようにエルを狙う。まるで獲物を見つけた捕食者のように。


(動け……この足!このままじゃ殺される……!)


次の瞬間、エルは壁に叩きつけられていた。男はエルの首に顔を近づける。


「へぇ……お前、中々面白いな。人間とウルフの匂いがする。……クフフ。これは壊しがいのある遊び相手だ」


男が鋭い爪をエルに向けようとした瞬間――


「うおおおおおっ?!」


上から何が落ちてきた。男の頭にそれは落ちる。男は地面に叩き伏せられる。

落ちてきたのは青年だった。赤い髪にエメラルドグリーンの瞳。白いシャツに革ジャンを羽織っていた。


「イッテェ……俺今何の上に落ちたんだ……?」


エルは呆然と見る。青年は顔を上げエルと目が合う。次の瞬間状況を理解したのか下敷きになっている男からすぐに飛び退いた。


「うわぁぁぁぁ!すんません!気づいたら下に落ちてたんです!」


青年が男を起こそうとした瞬間、青年は一瞬目を開き固まった。


「……ッ!」

青年は歯を食いしばり、拳を握る。


「……逃げろ。」


「え?」

エルが聞き返す。


「逃げろって言ってんだ!こいつは……ムーリスは俺がやる……!」


「正気?こいつは危険だ。君が戦ったら死ぬ。」


「わかってる!」


青年は叫びながら前に出る。震える足。でも逃げない。


「……もう、逃さねぇぞ。あいつらの仇、俺が討つ!」


 ムーリスと呼ばれた男は、体を起こしながら青年を見る。

 「あぁ?面白いねぇ……。じゃあ遊ぼっか、実験体クン?」


エルは剣を構え直す。


(変な男……)

だけど

(逃げない)


エルは並び立った。


「……二人で行くよ」


「は?無理だろ!」


「無理でも行く。」


ムーリスが両手を開く。


「いいねぇ……最高の夜だ」


こうしてエルと空から降ってきた青年との共闘が始まる。


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