第11話:異形のウルフ
「私、できるかな?あんまり戦ったことないの…」
アヤカがインカムをつけながら不安そうに言う。
「大丈夫。さっきだってポチから逃げてきたんでしょ?何より…」
エルは剣を出す。そして言う。
「あのときの…私を守ってくれた時のエイムすごかった」
その言葉にアヤカは微笑んだ。ブーメランを取り出し構える。
「ここからは協力戦!」
異形型のウルフ、ポチは襲いかかる。
「来るよ!」
ミヤビが叫ぶ。
エルとアヤカは左右に散る。がポチの動きが一瞬読めない角度で歪んだ。
「……ッ!」
ポチの爪がエルの頬を掠めた。冷たい感触。遅れてジワリと熱い感触。
「エル!左から!」
エルは反射的に避けた。
(早い……このウルフ、普通じゃない……)
アヤカが背後からブーメランを投げる。命中。しかしポチはよろけない。
「効いてない?!」
「違う……効いてる。効いてるけど……」
エルは鼻を鳴らす。漂う匂いにエルは眉を顰めた。
ウルフの匂い。だがどこか人間の匂いが残っている。
「相手の解析。エル、右からくる。」
エルは下に屈む。その拍子にエルはポチの懐に潜り込む。
「匂い。そこだ。」
エルはポチの核を見極めポチの頭目掛けて剣をつく。
(誰にも触れさせない。壊すのは私で十分。)
核が壊れる音。ポチは倒れる、が他のウルフのように崩壊しなかった。
「このウルフ…崩壊しない…」
エルがそういうとミヤビが非常階段から降りてきた。
「解析中………」
ミヤビがノートパソコンを操作。
「……こいつ、完全なウルフじゃない……」
その言葉にエルはドキッとする。
「完全なウルフじゃない…ってどういうこと?」
アヤカが聞く。
「そのまんまよ。70パーセントはウルフ。そして残りは人間の反応がする……」
人ではない姿、崩壊を始めない体。エルは何度か会ったことがある。エルはそいつらを「異形のウルフ」と呼んでいた。核が普通のウルフと比べ不安定で凶暴だった。彼らは人に見られていようがお構いなく人を襲う。幸いなことは戦闘能力がやや劣ることだった。エルとアヤカとミヤビは異形ウルフの遺体をただじっと見つめた。
ぐぅーー
突然音が鳴る。アヤカのお腹からだ。
「……ごめん。お腹すいちゃった」
「この状況でよくお腹空くわね……あんなグロテスクなもの見て。」
ミヤビは呆れる。
「だってぇ、お腹はいつだって空くよお。あんなに動いたんだし」
アヤカは答える。
「……。私もお腹すいたしご飯食べに行こっか。」
「やったぁ!私ラーメン食べたい。行きつけのラーメン屋さんがあるんだ〜。ニンニクチャーシュー麺赤蜂がおすすめ」
「へぇ。じゃあ私それにしようかな。ミヤビは?」
「……私カボチャラーメン。頭動かすと甘いの食べたくなるし」
三人はこのときすでに仲間だった。エルにとって大切な存在。守るべき存在だ。
余談
アヤカはニンニクチャーシュー麺を特盛に、エルはそこにさらにケチャップをぶっかけミヤビはそれに呆れながらカボチャラーメンに砂糖を追加していた。おかげさまで大将から名前を覚えられ常連になったことはまた別の話。
3日前、ネオンに満ち溢れたネオトピアシティのスラム街に空腹で今にも死んでしまいそうな男がいた。彼は生きるか死ぬかの選択を強いられていた。そんな男に近寄る影。
「まぁ……可哀想に。」
その声は優しそうで冷酷。彼女はイレーネ。ウルフの頂点に立つ女。
「……た……すけ……てくれ」
男はイレーネに縋る。
「大丈夫。あなたには三つ選択肢がある」
するとイレーネは一つ一つ指を立てながら言う。
「一つ、ここで死ぬ。二つ、苦しみながら死を待つ。三つ生きる。」
「い……きたい」
男がそういうとイレーネは微笑んだ。
「いいわ。生きなさい」
そういうとイレーネは男の首に青色の液体が入った注射器をさす。すると男の体はみるみるうちに変形する。骨は動き、指が長くなり、口は裂け、牙が生えた。そして……エルたちが戦うことになる異形のウルフに形を変えた。
「あが……が」
異形のウルフはもはや言葉という概念を失っていた。代わりに底から食欲が湧く。人を喰いたいと。
「あぁ……素晴らしい」
イレーネは異形のウルフを眺める。まるで最高傑作の美術品を見るように。
「ふふ……力はウルフには劣るけど、あなたは確かに生きた。この世界に留まる選択をした……」
そしてイレーネはゆっくり立ち上がる。
「ようこそ。私のユートピアに」




