第10話:トラブルメーカー
バタン。扉が開く。アヤカだった。アヤカはミヤビとエルに突進して来た。
「うわぁぁぁぁん!エルぅぅ!てつだってぇぇ!」
その声はまるで5歳児。
「……。どうしたの?」
「アヤカ、私のノートパソコン踏んでるんだけど。まぁゾウが踏んでも割れない仕様だけど。」
「ミヤビーー!来てたのね?!やったぁこれでみんなおともだち!」
アヤカは嘆いたり喜んだり忙しい。興奮するアヤカをエルが宥めて、アヤカに踏まれたノートパソコンをミヤビが念入りにゴシゴシと磨く。(ミヤビは潔癖症らしい)
「エルぅ。ポチのやつ見つけたんだけどずっと追いかけっこ状態!走って疲れちゃったよぉ」
エルは目をうるうるさせるアヤカにハンカチを渡しながら言った。
「手伝いたいのは山々だけど…アヤカの試験だからね……」
そこにミヤビが言った。
「一人でしなきゃいけないものなの?」
その言葉にエルは気づく。そういえばアキヤマは一人でするようにと条件はつけていない。ミヤビは頭の回転が速いためかこういう悪知恵が働く。
「じゃあ…まぁちょっとだけ手伝うよ。その代わり、たい焼き奢って」
「じゃ、私は関係ないからかえ……」
ミヤビが言い終わらないうちにアヤカがミヤビを見る。
澄みきった純粋な綺麗な眼。ミヤビは負けた。完全に。
エルは剣を取りアヤカとそしてイヤイヤついていくミヤビと出かける。
「そーいえばエルの武器すごくかっこいいね」
アヤカがエルの腰に下げている剣を指差す。
ネオトピアシティでは10歳から親の同伴なしで一人で外出できる。そして自分の身を守るために武器を持たされる。子どもの得意分野に合わせた武器。エルはアキヤマと出会った時から剣術の才能があった。記憶を失う前は剣術師とでも一緒に暮らしていたのかもしれないとエルは想像していた。
「昔からあった。私が生まれたときから。そういえば二人は武器どんなの持ってるの?」
エルがそう聞くと、アヤカは鞄から白いブーメランを取り出した。
「私はこれ。お父さんが私が赤ちゃんの時に買ってくれたの。武器を持てるの10歳からなのにね。」
アヤカは笑って答える。その笑いにはいつもの無邪気さは無い。少し悲しみと懐かしみを帯びた表情。
その時エルの脳裏に守れなかった顔がちらつく。
エルは勘が鋭い。それは人としてかウルフとしての本能なのか誰にもわからない。でも直感的にエルは悟る。アヤカは昔ミヤビと同じく大切なものを失った子だと。
「ミヤビの武器はなぁに?」
いつもの無邪気さを戻したアヤカが聞く。
「私はこれ」
そう言って差し出すのはエルにデータを見せるときに使ったノートパソコン。
「…それで殴るつもり?」
アヤカが若干引き気味で聞く。
「バカ。なわけないでしょ。非効率な戦いほど無意味。できれば危険と出逢わないようにするのが一番いい。だから私は最も安全な経路、時間を予測して決めてから動くの。」
「世界には色々な戦い方があるんだね」
とエル。
「ミヤビって、なんかすごい」
とアヤカ。
エルは感心していた。危険と出逢わないようにする。それが一番いい。そしてミヤビは続ける。
「他にも高知能AIを兼ね揃えた……」
エルは何一つわからなかったが頷くだけ頷いていた。アヤカはぽかんとしている。そんな他愛もない会話をしているとエルとミヤビは暗い路地に着いた。
「ねぇアヤカ。ほんとにここにポチがいたの?」
「うん。さっきここら辺で逃げられちゃったの。惜しかったなぁ。あれは」
「こんなとこ、女子三人が安易に近寄っちゃ最悪なことになる。分析しなくても誰でもわかる。」
不安になるエルとミヤビをよそにアヤカが突然叫んだ。
「あっ!あそこポチがいる!」
その視線の先のものは犬ではない。猫でもない。怪物のようなもの。そしてどこかに人間味を帯びたようなウルフの匂いがする怪物。怪物は牙を出し涎を垂らす。眼は悪魔のようだ。エルが剣に手をかける。
「ねぇアヤカ」
エルは口を開いた。
「ポチってあれ?」
「うん!そうだよー」
「化け物じゃん。あれ。」
そう言った瞬間エルは一瞬黙った。
「化け物だね。」
「アヤカ、あれと追いかけっこしてたの?」
「うん。」
「…。ちなみに追う側?」
「ううん。追われる側。」
1時間前。アヤカはポチを探していた。
「ポチぃーどこぉーー?」
その声は薄暗い路地に響いていた。人気のない薄暗い路地。アヤカは唯一の手掛かりの依頼書を見る。手掛かりといっても書いてあるのは依頼内容だけ。アヤカは悩んだ。
「どうしようかな。ポチっていうぐらいだし犬だろうから餌で釣ろうかなぁ」
アヤカがポシェットから食べ物を探そうとした瞬間唸り声が響いた。いる。ゴミ箱の後ろに。アヤカは叫んだ。
「ポチ!見つけた!」
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「はぁ……。またアヤカがトラブル持ってきた。」
呆れるミヤビ。
異形のウルフは突っ込んで来る。エルとミヤビとアヤカ彼女たちは避けて身構える。突進してきた異形のウルフは樽に衝突し身動きが取れなくなった。その隙にミヤビがインカムをエルとミヤビに渡し、ノートパソコンをひろげる。
「これは?」
エルとアヤカが聞く。ミヤビはプログラムを打ち込みながら答える。
「私、運動ができないから遠方から指示だす。最良の戦い方とウルフの軌道方向を予測する。だから……」
ミヤビは続ける。
「あなたたちは戦って。」
そう言ってミヤビは近くの廃墟の非常階段を駆け上る。




