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2話

 

 帝都の中心街は、馬車の車輪が石畳を鳴らし、市場の呼び声が響き合う賑やかな場所だった。

 シルヴァリスから帝都へ移動したアルメンタとエリエは、ローレンス家の当主セルゲイとの護衛契約を終え、早速アリアの護衛任務に就いていた。初日の任務は、アリアの帝都での買い物と打ち合わせに同行すること。だが、アリアの提案で、まずは彼女の行きつけのカフェ「ルミエール」で一息つくことになった。

 カフェは、帝都の広場に面した小さな店で、ガラス窓から差し込む陽光が木製のテーブルを温かく照らしていた。店内には焼き菓子の甘い香りが漂い、貴族や商人の子女たちが軽やかな笑い声を響かせている。

 アリアは窓際の席に座り、白いドレスに包まれた知的な美貌が周囲の視線を集めていた。

 エリエは深緑のローブに身を包み、落ち着いた微笑みで店内を見渡し、護衛としての警戒を怠らない。アルメンタは白銀の髪を揺らし、ショーケースのケーキに目を奪われる。

 

「わぁ、チョコケーキ、美味しそう…!」

 と呟く。

 エリエが「アルメンタ、任務中なんだから、ケーキに気を取られすぎないでね」と笑うと、アルメンタは

 

「う、うん、わかってるよ!」

 

 と頬を膨らませ、ほのぼのとした空気が流れた。

 

「ここ、よく来るのよ。落ち着くでしょ?」

 

 アリアが紅茶のカップを持ちながら微笑む。

 

「父さんの打ち合わせ、ちょっと堅苦しかったから、こうやってゆっくり話したいなって。改めて、自己紹介、いい?」

 

 エリエが頷き、「もちろん、アリア様。リラックスした場所の方が、アルメンタも話しやすいですよね」と言う。アルメンタは少し照れながら、「う、うん…アリアさん、優しいから、話しやすいよ」と小さな声で答える。アリアが「ふふ、ありがとう、アルメンタさん。じゃあ、私からね」と切り出した。

 

「私はアリア・ローレンス、19歳。来年で20歳になって、ローレンス家の当主を引き継ぐの。父さんが厳しくて、子供の頃から帝都の貴族社会や領地の管理を学んできたけど…正直、ちょっと窮屈だった」とアリアが笑う。

 

「でも、シルヴァリスの街や人々の笑顔が大好きだから、当主として頑張りたいな。趣味は読書とお菓子作り。このカフェのチョコケーキ、絶品だから、アルメンタさん、絶対好きだと思う!」

 

 アルメンタの目がキラキラ輝き

「ほ、ほんと!? 食べたい! アリアさん、ケーキ作るの、すごいね!」

 と手を叩く。

 エリエが「ほら、アルメンタ、任務中なのにケーキの話で頭いっぱい」とからかうと、アルメンタは「エリエ、ひどいよ!」と抗議し、カフェに軽い笑い声が響く。

「次は私ね」エリエが穏やかに続ける。

 

「エリエ、18歳。冒険者として、アルメンタと一緒に活動してるわ。魔法と槍が得意で、頭を使う交渉も嫌いじゃない。昔は…まあ、ちょっと複雑な環境で育ったけど、今は自由に生きるのが好き。趣味は、アルメンタをからかうこと」

 と笑うと、アルメンタが「え!? エリエ! それ、趣味じゃないよね!?」と顔を赤らめる。

 アリアが「ふふ、エリエさん、アルメンタさんのこと、ほんとお姉さんみたいに大切にしてるんだね」と言うと、エリエは「ええ、この子がいると、毎日賑やかで」と微笑む。

 

「アリア様、今回の護衛任務、絶対に成功させます。あなたが当主になるまで、私たちが守るわ」

 

 とエリエが力強く言う。アリアは「ありがとう、エリエさん。頼りにしてる」と頷く。

 

「アルメンタ、ほら、あなたの番よ」

 

 エリエが促すと、アルメンタは少しモジモジしながら言う。

 

「え、えっと…私、アルメンタ。13歳…くらい、かな? ずっとこの見た目なの。昔、ちょっと大変なことがあって…」

 

 彼女の声が一瞬小さくなり、呪いの過去が脳裏を過ぎる。だが、すぐに笑顔に戻る。

 

「でも、今はエリエと冒険者やってて、楽しいよ! 二刀流の剣が得意で、クリスタル・ノブっていう魔法具も使えるの。趣味は…甘いもの! エリエとスイーツのお店巡るの、大好き!」

 と目を輝かせる。

 

「クリスタル・ノブ、どんなの? 見せてくれる?」

 

 アリアが興味深そうに聞くと、アルメンタは少し躊躇する。

 

「う、うん…でも、ちょっと怖いかも」

 

 と呟き、手のひらに光を呼び込む。ガラス製のドアノブのような物体が現れ、内部で銀色の霧が渦巻く。

 陽光に反射してキラキラ輝く姿に、アリアが「わぁ、綺麗…!」と目を奪われる。

 エリエが「見た目は綺麗だけど、爆弾や煙幕になるの。アルメンタ、使うの嫌がるけど、用途に合わせて使い分ければとても強い武器になるんです」と補足すると、アルメンタは

 

「だって、爆発するの怖いんだもん……」

 と頬を膨らませる。

 

「でも、アルメンタさんがそれで守ってくれるなら、安心だね」

 

 アリアが優しく言うと、アルメンタは「うん! アリアさん、絶対守るよ!」

 と小さな拳を握る。その純粋な決意に、アリアの笑顔が深まる。

 

 自己紹介が終わり、三人がケーキを注文しようとしたその時、エリエの目が鋭く光った。カフェの入り口近く、黒いマントの男が不自然に視線を逸らし、テーブルに座る三人をチラチラ見ている。エリエが小さく呟く。

 

「アルメンタ、準備して。アリア様、落ち着いててください」

「え、なに?」

 

 アルメンタが目を丸くするが、エリエの真剣な声にすぐ反応し、二刀流の鉈剣を腰から引き抜く準備をする。

 アリアが「どうしたの?」

 と不安げに聞くが、エリエは

 

「たぶん、敵よ。アルメンタ、煙幕で」

 と短く指示する。

 次の瞬間、黒マントの男が動いた。手に握った短剣が光り、別の二人がカフェの奥から飛び出し、アリアに向かって突進してきた。客たちが悲鳴を上げ、店内がパニックに陥る。

 

「アルメンタ、今!」

 

 エリエが叫ぶと、アルメンタの手のひらにクリスタル・ノブが現れる。

 

「煙幕弾モード」

 

 と呟き、ノブを床に投げる。バチン! と音が響き、銀色の霧が瞬時に店内を覆った。視界が完全に遮られ、暗殺者たちの動きが止まる。霧は魔力を帯び、感知魔法や視覚を封じる効果を発揮し、敵の混乱を誘う。

 

「アリア様、こちらへ!」

 

 エリエがアリアの手を引き、カフェの裏口へ向かう。彼女の槍が青白い光を放ち、防御魔法の結界を張る。アルメンタは霧の中で一人残り、二刀流の鉈剣を構える。

 

「来なさい…!」

 

 と小さな声で呟き、暗殺者たちの気配を追う。

 霧の中で、暗殺者の一人が短剣を振り回し、アルメンタに襲いかかる。

 だが、彼女の動きはまるで風のようだ。鉈剣が閃き、敵の腕を切り裂く。血が霧に混ざり、仄暗い雰囲気が漂う。もう一人が逃げようとするが、アルメンタが素早く追い詰め、剣を首元に突きつける。

 

「誰に雇われたの!? 話して!」と叫ぶが、暗殺者は口元に怪しい笑みを浮かべ、ポケットから小さな水晶を取り出す。光が閃き、瞬間移動の魔法で消えた。

 

「あ、待て!」

 

 アルメンタが叫ぶが、すでに敵の気配はなくなっていた。

 霧が晴れると、カフェは混乱の後だった。客は逃げ出し、テーブルが倒れ、床には血痕が残る。アルメンタは肩で息をしながら鉈剣を収めると

「逃げられた…ごめん、エリエ」と呟く。

 エリエとアリアが裏口から戻り、エリエが「大丈夫、アルメンタ。よくやったわ。アリア様が無事なら、それでいい」と言う。

 

「二人とも…ありがとう」

 

 とアリアは青ざめた表情と震える声で呟く。

 

 カフェの店員が衛兵を呼び、混乱が収まるまで三人は裏の小さな部屋に移動した。店員が急遽用意した紅茶とチョコケーキがテーブルに並び、緊張が少し和らぐ。

 アリアがアルメンタの手を握り、突然抱きしめる。

 

「アルメンタさん、ありがとう…! あの霧、すごかった。あなたがいなかったら、私、きっと…」

 

 と涙声で言う。

 

「う、うん…アリアさんが無事で、よかった」

 

 とアルメンタは恥ずかしそうに小さな声で答える。

 エリエが紅茶を飲みながら

 

「アルメンタ、クリスタル・ノブ、初めて使ったのにバッチリだったじゃない。ちょっと怖がってたけど」と笑う。

 

「うぅ、だって、ノブ使うの、怖いんだもん…昔、変な実験されて、こういう力、嫌いだったから」

 

 アルメンタは少し影のある表情でポツリと呟く。その言葉に、アリアが目を丸くする。

 

「実験? アルメンタさん、昔、何か…?」

 

 アルメンタは少し躊躇し、目を伏せる。

 

「うん…小さい頃、変な人たちに、呪いの実験されたの。それで、こうやって、ずっと13歳の見た目のまま…クリスタル・ノブも、その時にできた力なの。怖いけど、こうやってアリアさんを守れたなら、よかった、かな」

 

 と小さな笑顔を見せる。

 アリアはアルメンタの手を強く握る。

 

「そんな辛いことが…アルメンタさん、強いね。私、貴族の生活も窮屈で嫌いだったけど、あなたの過去に比べたら全然だよ。こんな力でも、私を守ってくれて、ほんと感謝してる」

 

 と言う。彼女の共感に満ちた言葉に、アルメンタの目が少し潤む。

 

「アリアさん…ありがとう」

 と呟き、エリエが「ほら、アルメンタ、泣かないの。ケーキ食べよう」と優しく言う。

 

 三人はティータイムを再開し、チョコケーキを分け合う。アルメンタが「このケーキ、めっちゃ美味しい!」と目を輝かせ、エリエが「ほんと、アルメンタの笑顔見ると、さっきの戦闘が嘘みたい」と笑う。

 アリアも「二人とこうやって話せて、なんか、友達みたいだね」と微笑む。カフェの窓から差し込む夕陽が、三人の絆を温かく照らしていた。

 遠くの屋敷で、セルゲイは衛兵から襲撃の報告を受ける。エリエの冷静な対応とアルメンタの力に感心しつつ、10年前に出会った少女の面影がよぎる。

 10年前にパーティで一度だけあったとある貴族の娘に似ている…だが、気のせいだと自分に言い聞かせ、アリアの安全を二人に託した選択を再確認した。

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