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幕間

衛兵たちの休息室


シルヴァリスのローレンス家屋敷、その裏手にある衛兵詰所は、石造りの簡素な部屋だ。木製の長テーブルには、剣の手入れ用の油や布が散らばり、壁にはローレンス家の家紋が刻まれた盾が飾られている。夕暮れ時、巡回の交代を終えた衛兵たちが休息室に集まり、ざわめきながら雑談に興じていた。今日の話題は、つい先ほど屋敷に到着した二人の冒険者、アルメンタとエリエについてだ。


「いや、しかし、見たか? あの二人!」


若手の衛兵、トムが、剣を磨きながら目を輝かせて言った。20歳そこそこの彼は、詰所のムードメーカーで、いつも軽口を叩いて仲間を笑わせる。


「あの金髪のエリエさん、上品すぎるだろ! まるで貴族のお嬢様だぜ。槍持ってるけど、ほんとに冒険者かよ?」

「はは、確かにエリエ殿は美人だな」


年かさの衛兵、ガレンが、椅子にどっかり座りながら相槌を打つ。40歳を過ぎたガレンは、ローレンス家に長年仕えるベテランで、落ち着いた口調が特徴だ。


「でも、俺はあの小さい子、アルメンタ殿の方が気になるな。あの白銀の髪、まるで月光みたいだ。子供みたいで可愛いじゃないか」

「子供みたいって、ガレン、お前、そっちの趣味か?」


トムがにやにやしながらからかうと、詰所にいた他の衛兵たちがどっと笑った。


「バカ言え! 見た目が若いだけだろ! でも、なんつーか、純粋そうな感じがいいよな」


ガレンが顔を赤らめながら反論する。


「お前だって、さっきホールでアルメンタ殿がアリア様に話しかけられて照れてるの見て、ニヤニヤしてたじゃねえか」

「そりゃ、だってさ、めっちゃ可愛かったんだもん!」


トムが手を広げて熱弁する。


「アリア様が『よろしくね』って言ったら、アルメンタさん、顔真っ赤にして『う、うん、よろしく…』って! あんな子、守りたくなるだろ!」

「まあ、確かにあの純粋さは反則だな」


もう一人の衛兵、若手のライルが頷く。ライルはトムより少し落ち着いた性格で、剣術に自信がある。


「でも、俺はエリエさん推しだな。あの落ち着いた雰囲気、めっちゃ大人っぽいだろ。セルゲイ様との打ち合わせ見てたけど、頭の回転も速いし、交渉もバッチリ。なんか、頼れる姉貴って感じだ」

「姉貴って、お前、エリエさんにそんな呼び方したら、槍で突かれそう!」


トムが笑いながら言うと、詰所がまた笑いに包まれる。


「でも、ほんと、二人とも美人だよな。付き合うなら、どっちがいいと思う?」


トムが、にやりとしながら話題を振った。衛兵たちの目が一気に輝き、休息室が一層賑やかになった。


「お、いいね、トム! じゃあ、俺からな」


ガレンが身を乗り出し、真剣な顔で言う。


「俺はアルメンタ殿だな。あの小柄な感じと、ちょっと人見知りなとこが、なんつーか、守ってやりたいって気になる。あと、さっきホールでエリエさんに『はぐれないでね』って手握られてたじゃん? あれ、めっちゃ微笑ましかったぞ」

「わかる! あの姉妹みたいな感じ、いいよな!」ライルが同意する。


「でも、俺はエリエさんだ。だって、あの優雅な立ち振る舞い、貴族の令嬢みたいだろ。なのに、冒険者ってのがギャップ萌えだよ。魔法も槍も使えるって、めっちゃカッコいいし。付き合うなら、絶対エリエさんだな。デートで帝都のレストランとか連れてってくれそう」

「レストランって、お前、金ねえだろ!」


トムが突っ込むと、衛兵たちがまた爆笑する。


「でも、さ」


トムが少し声を潜めて続ける。


「あのアルメンタさん、見た目は子供っぽいけど、なんか戦闘力やばそうじゃね? ギルドの噂だと、呪いだかなんだかで、すげえ力持ってるって話だぜ。エリエさんも、魔法学園を14歳で首席卒業した天才らしいし。あの二人、ただの美人じゃねえよな」

「確かに」


ガレンが頷く。


「セルゲイ様がわざわざ女性冒険者を指定したってことは、アリア様の護衛に本気だ。噂じゃ、クラウス家やヴェルナー家が何か企んでるらしいし、暗殺の危険もあるって話だ。そんな大事な任務、並の冒険者じゃ任せられないよな」

「暗殺って…マジかよ」


ライルが眉を寄せる。


「アリア様、優しい人なのに、なんでそんな目に…。でも、エリエさんとアルメンタさんがいるなら、ちょっと安心だな。エリエさんのあの冷静な感じなら、どんな敵でもハマらせそうだし、アルメンタさんの純粋な目見てたら、敵も戦意なくすんじゃね?」

「はは、確かに! アルメンタさんがあのキラキラした目で『やめて!』って言ったら、暗殺者も逃げ出しそう!」


トムが笑いながら言う。


「でも、ほんと、付き合うならどっちだ?」トムが再び話題を戻すと、衛兵たちは一瞬考え込む。

「俺、やっぱアルメンタ殿」


ガレンが改めて言う。


「あの純粋な感じ、癒されるよ。なんか、甘いもの好きらしいじゃん。さっき、アリア様が『ケーキ作るよ』って言ったら、目キラキラさせてたぞ。一緒にスイーツ巡りとかしたら、楽しそうだな」

「スイーツ巡りって、お前、親父なのに乙女かよ!」


トムがからかう。


「俺はエリエさんだな。あの落ち着いた雰囲気で、頭いいし、話してて楽しそう。魔法の話とか聞きたいぜ。なんか、彼女にだったら人生相談もできそう」

「人生相談って、お前の人生、剣振ってるだけだろ!」


ライルが突っ込み、また笑いが起こる。

その時、詰所のドアが開き、隊長のバルドが入ってきた。50歳近い大柄な男で、衛兵たちのまとめ役だ。


「お前ら、いつまで騒いでるんだ。もうすぐ夜の巡回だぞ。新しい冒険者の話か?」

「隊長! いや、ちょうどいいところに!」


トムが目を輝かせる。


「エリエさんとアルメンタさん、どっちがタイプですか?」


バルドは呆れたように笑い


「お前ら、暇だな。俺はアリア様一筋だ。ローレンス家に仕える衛兵として、彼女を守るのが仕事だ。冒険者の二人には、アリア様の安全をしっかり頼むぜ。美人かどうかより、仕事できるかどうかが大事だ」

「さすが隊長、硬派!」


トムが冗談めかして敬礼するが、バルドは軽く頭を叩く。


「いいから、準備しろ。噂話は休憩時間だけでいい」


衛兵たちは笑いながら、剣や盾を手に準備を始めた。だが、トムの声が小さく響く。


「でも、隊長、ほんと、エリエさんとアルメンタさん、どっちもいいよな…」


詰所に最後の笑い声が響き、衛兵たちは夜の巡回へと向かった。ローレンス家の屋敷は静かに夜を迎え、新たな護衛者たちの活躍を待っていた。


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