6.誓い
深夜。
悠真は、自室のベッドの端に腰を下ろしていた。
窓は開け放たれており、夜風がカーテンを揺らす。
しかしその涼しさとは裏腹に、彼の体はまだ灼熱に包まれていた。
止まらない胸の奥の鼓動は荒々しく、血の流れは自分の意志とは無関係に暴れ続けている。
時折、心臓をわしづかみにされたような痛みが走り、息が詰まった。
「さすがにやばいか…?」
この異変が病なのか、呪いなのか、それとも自分が“何か”に変わり果ててしまったのか。
答えはわからない。
だがひとつだけ、胸に突き刺さったものがあった。
陽介の最後の言葉だ。
「……うまいもの…食べたかったな……」
あまりに小さな、しかし誰もが当たり前に願うはずの言葉。そしてそれすら叶わない世界。
国家公務員でさえ、配給だけでは生きられず、疑似食品に命を奪われる社会。
その不条理を目の前で突きつけられた時、悠真はもう、ただ傍観するだけの“世間知らずのお坊ちゃん”ではいられなくなっていた。
拳を握ると、血の流れが轟音のように高まった。
熱が骨を焼き、皮膚を裂くような痛みが走る。だが、その苦痛すらも誓いの証のように思えた。
「食は平等であるべきだ」
初めて、その言葉を口に出した。陽介の最後の言葉を、自分の誓いとして受け継ぐように。
命を削ろうとも、この理想を現実にする。
カーテンを押しのけ、窓の外に目を向ける。
夜明け前の空はまだ暗く、だが遠く東の地平線がわずかに白み始めていた。
黒い夜を切り裂く一筋の光。悠真は、その光に向かって静かに呟いた。
「俺が変える」
血がざわめき、再び胸を打つ。
それはまるで、彼の誓いを肯定するかのようだった。
翌日、体の異常は消えていた。




