5.異変
悠真は陽介の冷えゆく手を握りしめたまま、息を詰めていた。
胸の奥で何かが壊れ、空っぽになったような感覚。
だが次の瞬間、その虚無を埋め尽くすように、全身を焼き尽くす熱が突き上げてきた。
ドクン――。
異様な鼓動が耳を打つ。
それは心臓の鼓動というより、爆発音に近かった。
血が暴れ狂うように全身を駆け巡り、まるで自分の体が内側から押し破られるような感覚に襲われる。
呼吸が荒くなり、視界が赤黒く染まっていく。
周囲のざわめきや救急車のサイレンが遠ざかり、代わりに血液が脈打つ音だけが耳の奥に響く。
ドクン、ドクン、ドクン。
そのリズムが世界のすべてを支配していた。
腕が熱を帯び、握った拳に異常な力が宿る。拳を石畳にたたきつけると、大きなひびが走った。
だが悠真自身は、その力を制御している感覚がまるでなかった。
「体が……おかしい」
血管が浮き上がり、皮膚の下で赤い光が走る。
心臓はまるで燃え上がる火球のように暴れ、今にも爆発しそうだった。
痛みと熱が全身を貫き、寿命を削られるような冷たい恐怖が背筋を走る。
「なんだ……これ……」
力があふれる感覚と、それに抗えない自分。これは病なのか、呪いなのか。
ただ一つ確かなのは、もう元の自分には戻れない、という直感だった。
悠真は必死に息を整えようとした。
だが胸の奥で渦巻く熱は収まらない。
親友を失った絶望と、世界への怒りが、さらに血を煮え立たせていく。
「……うまいもの…食べたかったな……」
陽介の言葉が耳に蘇る。
その瞬間、全身の血が轟音を立て、悠真を突き上げた。
涙と汗で濡れた顔を上げながら、彼は震える声で呟いた。
「……俺が……変える……」
まだこの異変が何なのかはわからない。だが、この力を使わずして陽介の無念を晴らすことはできない。
悠真の誓いと共に、赤黒い熱は燃え続けていた。




