4.遺した言葉
「誰か! 早く!」
悠真の叫びが、群衆のざわめきに吸い込まれる。
駆け寄った医師らしき男が、陽介の首筋に触れ、ただ静かに首を振った。
その仕草ひとつで、悠真は悟った。
「そんな……」
膝をつき、陽介の顔を覗き込む。
焦点の合わない瞳が、それでも必死に悠真を捉えようと動いている。
唇が震え、声にならない声が洩れた。
悠真は耳を近づけた。陽介は息が詰まりながら、途切れ途切れに言葉を吐く。
「……うまいもの…食べたかったな……」
その声はかすれ、風に消えそうだった。
悠真の脳裏に、二人で過ごした日々がよみがえる。
――高校の帰り道、屋台で買った焼きそばを二人で分け合い、「うまいな」と笑い合った夜。
――公務員試験に合格したとき、「これで一生安泰だ。毎日うまい飯が食えるな」と冗談めかして語った彼の顔。
それが今、命を削る疑似食品を口にして朽ち果てていく。
あまりに残酷な結末だった。
「陽介……」
その呼びかけに応えるように、陽介の目がかすかに揺れた。だが、それが最後だった。
彼の瞳から光がふっと消え、力なく腕が落ちた。
都市の喧騒が一気に遠のき、悠真にはただ親友の最期の言葉だけが残った。
――「うまいものが食いたかった」。
それはあまりに小さな願い。だが同時に、誰もが等しく抱くはずの願い。
その願いすら奪われる世界を、果たして「平等」と呼べるのか。




